第35話

視界が滲んで涙が頬を伝ってシーツを濡らしていく。


堰を切ったように溢れてくる涙は、自分の意思では止められそうにない。


好きな人に、他の人のことを言われるのは嫌だ。


嫌いなら嫌いでいいから、他の人を押し付けるような真似だけはして欲しくなかった。


好きだから、片想いする自由位奪って欲しくなかった。


のしかかられて、身動きのできない状態で、涙すら拭けなくて。


そんな私の涙を、理央くんが指の腹で拭い取った。


何度も何度も。


そして、私の目をじっと見つめて呟くように言った。



「好きだって……何度も伝えたろ?」


「……え?」


「好きだって、初めて抱いたあの夜から、何度も言ったよな、俺」


真面目な顔でそう繰り返す理央くんの表情に思考が真っ白になった。


好きだと伝えてくれていた?


た、確かにベッドの上で何度か聞いたそんな言葉を。


だけどそれは情事の最中、行為を進める上での潤滑油の役割だとしか思っていなかった。


だって、あんなにたくさん聞かされれば、この人はセックスをする時誰にでもそう言っているんだと思ったくらいだ。


そんな、まさか、と思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る