第25話

「そう、だね。次は場所を選んで口説くことにしよう」


楽しそうにそう話す彼は、どこまでも余裕で、尚更本気なのか冗談なのか全く読めない。


相変わらず同僚2人は興奮して、きゃあきゃあ言っているけれど、完全に私は蚊帳の外だ。


居た堪れなくてその場から離れようと腰を浮かした時、後ろから聞こえてきた声に固まってしまった。


「敷島さん、お疲れ様です。……なんだか楽しそうですね」


どうして?と問わずにはいられない。


けれど振り返るわけにもいかなかった。


「篠原、君こそいつも通りお盛んだね」


「そんなことありませんよ。……えと、経理部の方達ですよね」


気さくな雰囲気で話しかけてきた理央くんに、八原さん達もさらに興奮した様子で彼の言葉に応えている。


私はといえば、どうやってこの場から逃げるか、それだけを考えていた。


気付かれるはずはない。


けれど生きた心地がしないというのは、こういうことを言うのかもしれないと思う。


どうか、気付かれませんように。


俯いて彼の視界には存在しないものの如く、ひたすら押し黙っていた。

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