第26話

「⁉︎」


首元に何か触れた気がした。


けれど振り向けず気のせいだと思うことにした直後、後ろから滑るように人の指が首筋を撫でた。


え、なに?


私の真後ろにいるのは理央くんの筈で……ということは、この指の感覚は理央くんのもの?


首筋を滑って耳孔に小指だと思われるそれが入り込んできた。


ビクッと肩が震えた。身体に力を入れていないと声まで漏れそうになる。


「山瀬さん、どうかした?」


敷島さんに問われて、「なんでもないです」と答えた声は震えてしまう。


だって、言えるわけない。


彼らからは、なにも見えていないのかもしれない。


でも、気のせいじゃないよね?


どうし、て?


じわりと目の奥が熱くなって、涙腺が潤んだ。


眼球を潤したそれが零れ落ちそうになる一歩手前で、彼の指だと思われたそれは離れた。


「ゴミがついていましたよ」


後ろから伸びてきた掌の中には、なにも見えなかった。


それでもただ俯いて「ありがとうございます」とだけ返した。


今のは、わざとじゃないよ、ね?

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