第11話

「あ、柏田部長が言ってたコーヒーってこれか……」


「⁉︎」


背後から飛び込んできた声に、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。


だって……嘘でしょ?


振り返らなくても分かる。


理央くんの、声だ。


「すみません、柏田部長には許可もらってるんで。俺にもそのコーヒー少し分けてもらえますか?」


そう言いながら、理央くんが給湯室に入ってくるのを背中で感じた。


すれ違うくらいなら、今までにも何度もあった。

でも、こんな風に話しかけられたのは初めてで、まさかバレるわけはないと思いつつ、すぐには返事ができなかった。


「あの?」


訝しむ声音に我に返った。


慌てて手近にあった紙コップに部長のコーヒーを入れて、俯き加減にコーヒーを手渡す。


「……どうぞ」


自分でも呆れるくらい愛想もくそもない。


「……ありがとう、あなたは……」


「し、失礼します」


自分のカップを持ったまま、彼の横を抜ける。


何か言いかけた彼の言葉を無視するようになってしまったことに後から気付いたけれど、真っ直ぐ顔を見ることができない状態なら、失礼なのは今更だと開き直った。


今の自分が本当の姿なのに、こんな自分は知られたくないと思ってしまう。


なんて卑屈な人間なんだろう私は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る