第9話

「また高価そうなヤツを。人の財布をあてにし過ぎ……」


溜息まじりに落とされた声は、確かに理央くんのものだった。


彼女を振り返った彼の視界に偶然私も映ったのだろうか?


彼と、目が合った気がして慌てて顔を背けた。


けれどすぐに、まさかね……と思い直す。


彼が、私に気付く筈ない。


「羽奏?どうかした?」


店の真ん中で固まった様に動かない、どこかトリップしていた私を、恵理菜の声が現実へと引き戻してくれた。


「え、あ、なんでもない。恵理菜は、何か買うの?」


「ううん、いまいち。私はもういいや。羽奏はどうする?」


「私もいいかな」


「じゃあ、行こうか……?」


一瞬、恵理菜の眉間に皺が寄った。けれどそれはほんの一瞬のことで、彼女に急かされるまま店を出た。


彼女、可愛かったな。


あの後、寂しさに耐えられず呼んだ彼女なの?


「羽奏?こら、眉間のシワ」


恵理菜に指摘されて、自分が不機嫌な顔を晒していたことに気づく。


「えっ、そう?……てか、恵理菜だってさっき嫌そうな顔してたけど?」


「や、だってね。さっきイケメンに甘える女いたじゃん?あの子がやたらチラチラこっちの方見てたからさ。やな感じだったなと」


「なんだろね」


「ま、いいや。ね、お腹空いたしちょっと早めのランチ行こうよ」


恵理菜の誘いに頷いて歩き始めた。

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