第8話

恵理菜が見たのは、時間や場所から言って、多分きっと私に違いないと思う。


気づかれない様に変装していたのだから、それについては安心していいはずなのに、なんだか普段の自分が惨めに思えてくる。


彼だって……理央くんだって、本当の私を知ったら、きっと幻滅するだろう。


騙されたって怒るかもしれない。


でも、きっとそんな心配は無用だ。


彼が私に気付くことなんて絶対にない。


「あ、羽奏、あの店に行こう!」


私によく似た人の話は、あっという間に恵理菜の興味から削がれた様だ。


ホッとするやら、気が抜けるやら……。


「分かったから……って、待ってよ」


すでに目的の店へと入っていく恵理菜の後を追って、私もその店に入った。


ウィンドー越しに見えた物はレディースばかりだったのに、奥に入ればメンズ物も多く並べられてあった。


恵理菜の後を追って、視界の端に見慣れた背中を見つけて、ハッとした。


理央、くん?


すらりと伸びた長身。


黒のジャケットにビンテージジーンズ。


昨日会った時に着ていた彼の服装とは違うけれど、見慣れた背中に彼だとすぐに分かった。


「理央!これ見て?」


可愛らしい声が聞こえて、その声の持ち主が理央くんだと思ったその男性に近づいていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る