第9話

そうだ、と思い出したようにリトくんが口を開いた。


「ユナ、覚えてる?」


「え、な、なに?」


吃った私にリトくんが一瞬目を見開いて、直後クスッと笑った。


動揺に気付くリトくんが憎い。


目的の加湿器とジャスミンのオイルを手にとってレジへ進むリトくんの後を追った。


支払いを済ませ、紙袋に入れられた物を左手に持って、空いた右手を私へと伸ばす。


「去年ダックスを見た後のこと」


話の続きに口を開いたリトくんの顔を見上げて記憶を辿った。


「……!」


思い出した……けど、思い出さなきゃよかった。


外なのに、人目がたくさんあるのに、もう顔の火照りが治らない。



「あはは。思い出したんだ。……で、照れてる。可愛いなぁ、ユナは」


楽しそうに笑うリトくんの頬を右手で捻った。


リトくんの両手は塞がってるから抵抗できないね。


「リトくんの意地悪」


ほんと、意地悪。


こんな往来で思い出させた罪は重いんだから。


「ユナが寒がりだから悪いんだよ」


「……」


「あぁ、今年は大丈夫。コレがあるからさ。暖房たきまくって部屋が乾燥しても……」

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