第3話

「リトくん」


不思議。


好きな人の名前を呼ぶと、沈み込んだ気持ちがふわんと一瞬浮いた気がした。


「ユナ」


ふわん、ふわん、


好きな人に名前で呼ばれると身体迄浮いたようになる。


……んじゃなくて、本当に浮いてるんだ私。


リトくんに抱き抱えられてる。


「リトくん、重い、よ?」


気遣う気持ちが生まれたのは、リトくんのおかげ。


さっきまでの私は、そんな気持ちタールみたいに真っ黒な心の奥に沈み込んでた。


ふるふると首を振るリトくんの胸に、コツンと頭を預けた。


二人掛けのソファに宝物を扱うみたいに優しく座らされて、その横に腰掛けたリトくんの大きな手が、私の頭を撫ぜた。


「ほら、コレ抱っこしてな」


渡されたのはもふもふの犬の抱き枕。


キッチンに向かっていくリトくんの背中を見送って、抱き枕をギュッと抱きしめる。


シュンシュン、とお湯の沸く音がする。


カチャカチャとマグカップの中をかき混ぜるスプーンの音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る