コンビニスイーツとギャップ萌え

第19話

  

 「……太陽が黄色い」


 空を見上げれば、既に高みへ近づきつつある陽光が、夜勤明けの疲弊した頭に容赦なく降り注いできた。

 駐車場に向かうと私の車の前に緋山くんがいた。

 

 これから夜の話の続きをされるのかと、少し気が滅入った。疲れているし、今すぐかえってベッドに飛び込みたい。


 「緋山くん」


 「なんか軽く食べに行かないか?」


 「……」


 「話したいこともあるし……」

 

 話したい事?やっぱり夜の続きなんだろうか?


 答えに戸惑っていると、急に視界に何かが飛び込んできた。


 「内藤さん?」


 「緋山さん、妹尾さんお疲れ様でーす」


夜勤明けとは思えないすっきりした表情と、マスクの上のバッチリ決まったアイメイク。服装もこのままデートに行っても何の問題もなさそうな位可愛い。ドライヤーでも持ってきているのか、程よく巻かれた茶髪がふわふわと肩の辺りで揺れていた。


そんな姿の内藤さんが、勢いよく飛び込んできて緋山くんの腕に絡みついた。


 「元気だな」


 「深夜明けって、なんかテンション高くなりません?このまま帰って寝るだけとか考えられないですもん」

 

 彼女の絡まった腕をやんわりと解きながら、緋山くんは感心した様子で彼女を見ている。


 同じ女子とは思えない差に秘かに落ち込んでしまう。


 メイクとか、夜勤明けで家に帰るだけの私には必要最低限で十分だし、何ならマスクしてるからノーメイクでもアリだ。服装だってラフなニットとジーンズだし。


 「今、ご飯に行くって話してたんですよね?私も行きたいって言うか、絶対一緒についていきます」

  

 彼女のテンションと上から差す陽光に、一気に疲れ具合がアップした。


 「よかったね、緋山くん。飯友ゲットだね。私今日は疲れてるからお先に失礼します」


 「は?何言って。話があるって言っただろ?」


 「話?話なら私も緋山さんにあるんですけどー。ほら、例えば金曜日の夜のアレのこととかー」


 鈍い私でもはっきりとわかる位、彼女の語尾にはハートマークがついている甘ったるい響きだった。

 しかも、金曜の夜のアレってなに?


 彼女に尋ねようとして視線を向けると、その寸前で緋山くんが遮るように、彼女の口元をマスクの上から自らの手で塞いだ。


 「ば、お前何言ってっ」


 「あー、ごめんなさーい。2人だけの秘密でしたよねー」


 「な、そ、誤解を生むような言い方すんなよ」


夜勤明けの疲労困憊の脳には、目の前で見せられているバカップルの茶番劇みたいな場面は辛かった。


 っていうか、この2人がこんなに仲がいいことを知らなかった。ファンだなんだと騒がれることを嫌がっていた割には、まんざらでもなさそうな緋山くんの様子に少しムカついてもいた。


 クールな緋山くんも、唯一の同い年の私が付き合わなくても、ちゃんと飯友ゲットできるんじゃない。

 

 「お疲れさまでした」


 「おい、妹尾っ」


緋山くんの声も聞こえないフリをして、車に乗り込みすぐにエンジンをかけると、彼らが車から離れたのを確認してアクセルを踏む。


 疲れと、イライラとモヤモヤが積もってどうにかなりそうだった。

 

 真っすぐ帰るつもりでいたけれど、ちょっとコンビニに寄って帰ろ。こういう時甘いものに癒されたくなる。


 新作スイーツは事前にチェック済だった私は、最寄りのコンビニを目指した。


 「久間田くん?偶然だね」

 

 コンビニのスイーツ売り場を目指した私の目の前に、見慣れた顔を見つけて近寄り声をかけた。


 「あぁ、妹尾さん」


 「お疲れ様です」


 偶然見えた彼のカゴの中には、新作の和スイーツが幾つか入っていた。


 ちょっと意外だったのは、カゴの中に入っているのがスイーツだけだったこと。それも和スイーツオンリー。


 もちろん、これからお弁当や揚げ物系を買って帰るのかもしれないけど、まずスイーツの場所に来たのであれば、結構な甘党でもあるのだろうか?


 普段感情の起伏が乏しく見える彼の以外な一面を見つけて少しホッとした。


 「疲れた時って、甘いものを脳が欲しがるんだってね」


 「……低血糖状態ってことなんすかね」

 

 淡々とした返答も、職場での彼を知っているからさほど気にならない。クールで愛想がないのはお互い様というところか。


 思わず見入ってしまった久間田くんの顔。


 この顔も所謂イケメンの部類に入るのではないだろうか?ちょっと淡泊な感じのイケメン顔。多分もちょっと愛想をよくして笑顔を見せれば……。


 おっと、何を考えているんだ私は。

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