第11話

自己嫌悪でしばらくその場から動けず、けれど気付けば近くの居酒屋を転々として、いい加減帰らないと行けないと病院近くまで戻る途中で、昔妹尾や当時の同期と飲みに行っていた行きつけの居酒屋に入った。


 『緋山くん、久しぶりだね。えらく酔ってるけど大丈夫?』


 店主の娘の叶さんに声をかけられ、強めのお酒を頼んだこと迄は記憶にあった。


 お酒に弱いわけではなかったが、コロナ禍になり外で飲み歩く機会も減ったためアルコールに対する抵抗力も弱くなっていたのかもしれない。


 記憶を無くすまでお酒を飲んだのは、そのときが初めてだった。


 誰か、女性の声を聞いた気もした。


 もしかしたら、妹尾が戻ってきて俺のことを心配してくれているのかもしれないと、ぼんやりする思考の隙間でその声に身を委ねていた。


 翌朝、酷い頭痛と吐き気で目が覚めた。下着1枚の間抜けな姿だった。


 見慣れない場所に戸惑いもしたが、なんとかトイレを探してひたすら胃の中に溜まっていたアルコールを吐き出した。


 身にまとうアルコール臭が辛くて、トイレの隣にあるシャワーを浴びれば少し頭痛も治まってきて、俺はその時ようやく自分がどこかのビジネスホテルにいることに気づいた。


 シャワールームから出て部屋に戻って、シングルベッドにある膨らみを見つけた。


 え?誰かいる?


 まさか、俺……妹尾と?


 夢現で誰かの声を聞いていた。


 妹尾が戻ってきて、飲みすぎた俺を心配してくれて、このホテルに来た?


 嘘だろ?俺、キスどころか彼女を?


 呆然としながらも、記憶のカケラみたいな断片を探っていく。


 誰かの声がして、その温もりに甘えた。


 仄かに香る甘い香水と、人肌を覚えている。


 「最低だろ、俺」


 妹尾になんて言って謝ったら。


 いや、勿論妹尾のことが好きだし、キスもそれ以上も後悔なんてしてない。


 彼女が受け入れてくれたのなら、それは喜びでしかない。


 でも、素面の時ならいざ知らず、こんな酔っ払って意識朦朧とした状態で告白もしないままコトに及んだのだとしたらそれは最低でしかないだろう。


 妹尾はどんな顔をする?


 軽蔑?それとも……。


 恐る恐るベッドに近づき、彼女の寝顔を見るべく毛布をずらした。


 「は?」


 間抜けな声が出た。


 というか、それ以外の言葉なんて出なかった。


 あり得ない事実に思考が完全にストップした。


 なんで?


 ここにいるのが妹尾以外の人間であるはずがなかった。


 いや、妹尾でなくても全く関係ない見知らぬ相手だったのならそれはそれで救いだった。


 ビジネスホテルの狭いシングルベッドで、何も身に纏っていない状態でスヤスヤと穏やかな寝息を立てていたのは、同僚の内藤依馬だった。

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