第10話
告白のチャンスはなかなかやってこなかった。
そんな俺に、チャンスが降ってきたのは、夏が終わり肌寒さに身震いする時期になった日のある休日だった。
俺には学生の頃から続けている趣味がある。
投稿サイトに小説をいくつか書くことだ。
それなりにファンもいてくれて、小説をアップするたび反応をくれる人もいた。
幾度かコンテストに応募したこともある。
ちょうど半年前に応募したコンテストの結果発表が出る前、登録していたメールにコンテストの大賞に選ばれたこと。それに関して授賞式はコロナ禍の為サイト上での発表になること。それに伴い提出してほしい文書があるとの依頼が届いたのだ。
コンテストで大賞を取れたのは初めてで。それはもう驚きの方が大きくてなかなか実感できなかった。
賞状と目録が送られてきて、サイト上でファン数が爆上がりしたことや、今迄の比でないくらいの感想をもらう日々。
仕事でも多少テンションが上がった状態で、師長から「何かあったの?」と個室に呼ばれて問いただされたこともあった。
それでも、師長には詳細は伝えなかった。
1番に知らせたいのは、親でも友人でも、上司でもなく。
妹尾にだった。
彼女なら自分に起こった奇跡を、一緒に祝ってくれるんじゃないかと。純粋にすごいね、おめでとうと言ってくれると信じてその機会をずっと狙っていた。
告白をするなら、きっとそのときだと思った。
そうはいっても、サイトのホームページを見せる直前まで彼女の反応は不安だった。
もしかしたら俺が思い描く反応ではないかもしれない。俺が勝手に妹尾に期待しているだけで。
彼女にしてみれば、そんなことでと言う反応だってもらうかもしれない。
どきどきしながらホームページを開いて彼女に説明したとき。
『引いたりするわけない。素直にすごいって思ってる。そういえば、緋山くんって文章まとめたりするの上手だもんね。症例発表とか、先生の学会の資料作ってたりもしてるもんね!』
目をキラキラさせて、尊敬の眼差しで俺をみながらスゴイと褒めてくれた。
普段の仕事の内容まで褒められてちょっと照れくさかった。
でも、やっぱり妹尾の反応は俺が望んだ通りのもので。
その時になって、受賞の喜びが再度大きな波になって俺を飲み込んだ。
一緒に焼肉を食べに行って、楽しい時間を過ごして。
帰る時間になっても離れ難くて。
何度か妹尾の名前を呼んで、告白の機会を待った。
あの時、なんだか微妙な空気になって、見上げてきた彼女の表情に胸がドクドクと痛むくらいに打って。
だけど、サラリと逃げていく妹尾を強引に引き留めたくて。
けれど、人影が見えて慌てて隠れた。
あの時間、この場所に来る人間は患者さんか病院に勤めている人間だけだと分かっていたから、純粋に邪魔されたくなくて。
車の影に妹尾と一緒に隠れて。
去っていく声に安堵すると同時に、自分のすぐ近くにいる妹尾の顔を見ていたら、我を忘れた。
『好きだ』と言う感情が溢れてきた。
普段マスクで隠されている口元が端から覗き、柔らかく艶めくそれに触れたいと言う衝動を抑え切れなかった。
どうしてあの時、止められなかったんだろう。
告白をすっ飛ばして無理矢理キスをした。
相手の気持ちを確かめもせず、自分の欲望のままに突き進んでしまった、
拒否されて当然だった。
それなのに、俺はこれ以上ないくらい落ち込んでしまった。
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