第20話 【実績解除】恋がなにか、わかりました
それから。わたしはひかりちゃんとショッピングセンターのいろんなお店を目的もなく回ったり、ゲームセンターでちょっとした勝負をしたりと過ごした。
付き合い始めたばかりの『恋人』とだったら、あまりにも無計画すぎる時間の使い方。でも、『姉妹』としてはこれでいいんじゃないかな、ってわたしは思ったから、あえて細かい計画まで立てなかった。やり残したことがあったり、時間が足りなかったりしたら、またくればいい。1年以内に分かれる確率が90%だという高校生カップルと違って、姉妹って言うのは、どちらかが死んじゃうまでずっと切れない関係なんだから。二人でいる時間は、無限とは言わないけれど、たっぷりある。
そんな風にいろいろ回っているうちにひかりちゃんははしゃぎ疲れちゃったみたい。休憩のためにベンチに腰掛けるなりうとうとと舟をこぎ出して、隣に座っているわたしの肩に体重を預けてくる。
——お姉ちゃんは体力お化けでいつも余裕そうな顔をしているけれど、ひかりちゃんはそんなに体力ないんだな。ちょっと意外かも。お姉ちゃんと似たタイプに見えたひかりちゃんも、やっぱり違う女の子なんだな。
そんなことを思いながら、わたしはひかりちゃんに膝枕をしてあげる。安らかな寝息を立てるひかりちゃんを見てると、愛おしくてたまらなくなってくる。
気持ちを抑えられなくなってつい、無断でひかりちゃんの黒髪を撫でつけてしまう。吸い込まれそうなほど深い黒色をしている艶やかな髪は本当に綺麗で、撫でつけるとふわり、とカモミールの香りが薫る。それだけで我慢できなくなって、わたしはひかりちゃんの黒髪を自分の指に巻きつけ、ついには伸ばした自分の黒髪と絡ませてしまう。
——ひかりちゃん、よく見ると、睫毛も長くて、唇もなんか、お姉ちゃん以上に艶やかだな。そんなひかりちゃんとキスをして、舌とか、もっと敏感なところとか、深い深いところで交われたら、どんなに気持ちいいんだろう。
恍惚とした頭でそんなことを考えている時に、わたしははっとする。えっ、今、わたしは何を考えていた? ひかりちゃん相手に、しかもわたしにはお姉ちゃん——否、琴音ちゃんという彼女がいるのに。
いや、それどころの話じゃない。今、わたしがひかりちゃんに抱いちゃったのはわたしが琴音ちゃんに抱いている感情以上の、気持ち悪い何かだ。お姉ちゃんと恋人で居続けるために、本当は嫌な気持ちを押し殺してやっている行為や、それ以上のことを、ひかりちゃんとしたいと思っちゃった。
——なんなの、この気持ち悪いわたしの中に渦巻く熱い気持ちは。まさかこれが、人を好きになるってこと、なの……?
怖くなってわたしは、鞄からペットボトルを取り出したかと思うと頭から被る。その水が少しかかっちゃったのか、ひかりちゃんが目を覚ます。
「冷たっ……ってえっ、東さんがわたしに膝枕してくれてる? えっ? えっ?」
寝起き早々、困惑するひかりちゃんに、わたしは完全に理性を取り戻していつも通りになっていた。
「そんなことよりも東さん、どうしたんですか、その頭! 濡れてますよ」
「あーごめん。ちょっと頭を冷やしたくなっちゃった……的な?」
私の下手な返事にひかりちゃんは
「ふふ、ほんと東さんは面白いですね。ほら、タオルで拭いてください」
と言ってタオルを出してわたしの頭を優しく拭いてくれる。その感触は気持ちがいい。けれど、わたしの心の奥底に生まれてしまった気持ち悪い感情を知ったとしたら、ひかりちゃんはこんなにわたしに優しくしてくれないんだろうな、と思うと、水がかかった頭以上に背筋が寒くなった。
——きっとこの気持ちは誰にも言っちゃダメなやつだ。これを口にしたらお姉ちゃんとも、そしてひかりちゃんとの関係も終わっちゃう。
そう思うと同時に考える。
——お姉ちゃんのわたしに対する気持ちも、ずっとこんな感じだったのかな。すぐ近く、触れられる距離があるのに、相手と自分の気持ちが違うから深いところで交わることができなくて、気持ちをひた隠しにするしかない。もどかしくて、でもこの気持ちが爆発してしまうのが怖い、こんな気持ちを。
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