【ハロウィン特別編】とある生徒会のお話
今回、全編通して第三者視点です。
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10月31日、俗にいうハロウィンの日。
毎年この日になると、私達月ノ森高校の生徒会は高校の近くにある幼稚園に、ハロウィンイベントのボランティアに行くことが恒例になっていた。
ボランティアの内容は生徒会役員全員が各々コスプレをし、園児にお菓子を配るというもの。そしてそのコスプレの内容は、生徒会役員同士でも当日まで明かされないことになっていた。そのコスプレイベントが、実は私はちょっぴり楽しみだった。なぜなら私が密かに思いを寄せている副会長——東双葉先輩の、普段見せない衣装姿が見られるから。
副会長はいつも天真爛漫で、周囲の人を笑顔にさせてくれる太陽のような人だった。そんな先輩に憧れ、そんな先輩のようになりたいと生徒会の門戸を私は叩いた。そして先輩の隣にいるうちに、いつしかその憧れは恋慕に変わっていった。まあ先輩は恋愛とか、ましてや女の子同士で付き合うとか全く考えていないだろうから、怖くて告白なんてできないけど。
でも、合法的に先輩のコスプレ姿を見られる時くらい期待したっていいじゃん。そんなことを勝手に思っていた。
——先輩はどんな格好をしてくるのかな。魔女っ子? 大きな三角帽子が小柄な先輩に似合いそうだし、魔法でいたずらされたい。それともエッチなサキュバスのコスプレで、私のことを誘惑してきたりして……。だとしたら、色々と冷静でいられる自信がないな。
幽霊の衣装に袖を通しながら、妄想をはかどらせてると。
「がおー」
「え……」
へんな鳴き声を出しながら生徒会室にやってきた緑色の塊にわたしは目を丸くする。
それは、よく見ると怪獣の着ぐるみに身を包んだ先輩だった。それを見た瞬間、わたしの淡い期待が音を立てて崩れる音がした。
「先輩、その格好って……」
「怪獣のコスプレ。かわいいでしょ?」
「え、えっと……」
反応に困っていると。
「あれ? あれれぇ?」
尻尾がつっかえたのか、先輩は生徒会室のドアの前で立ち往生している。そんなどこか抜けた先輩に、私の頬は自然と緩む。
――まったく、先輩はいっつも私の想像の斜め上を行くな。でもそんな先輩がどうしようもなく可愛くて、愛おしい。
そんなことを思いながら私は呆れている風を装って。
「もうっ、先輩ったら。はい、手伝ってあげますから」
と、先輩に声を掛ける。
「真白ちゃん、ありがとう…!」
そんなかわいすぎる怪獣の「ありがとう」ビームに、私の心の都市は陥落寸前だった。
と、その時。
「おっ、副会長に真白たんじゃないっすか」
「怪獣の着ぐるみに日本の幽霊って……ふうちゃん先輩たち、ハロウィンが万聖節っていう西洋のお盆の前夜祭だってこと、知ってます?」
双子で生徒会役員をやっている茜さんと葵さんがやってきた。彼女らのコスプレは対照的な白い天使と真っ黒な悪魔だった。よく言い合いしている二人だけれど、生徒会室にやってきた二人の手は無意識にか繋がれていた。
「生徒会長はまたどうせ女生徒をナンパに行ってるんだろうし……じゃ、行こっか」
先輩の言葉に、私たちは大きく頷いた。
―――――――――――――――――そしてその日。最も多く幼稚園児の人気を博したのは先輩の怪獣の着ぐるみだった。一番ハロウィン感ないのに、解せない……。
◇◇◇
同じ日の夜、西園家の琴音の部屋。目立つところに数枚の双葉の写真が飾られているのが目を引く部屋で、義姉の琴音と義妹のひかりは、肩を寄せ合って1冊のアルバムに視線を落としていた。
「双葉ちゃんってああ見えて意外とイベントごとが好きでね。ハロウィンも毎年、いろいろな仮装をしていたの」
昔ながらの幽霊・くじらの着ぐるみ・狼男(狼女?)・とうもろこしの着ぐるみ・魔法少女・ハリネズミの着ぐるみ。毎年毎年の様々なコスプレに身を包んだ双葉の写真を、琴音は愛おしそうに撫でる。
「今年も双葉ちゃんの学校の生徒会ではコスプレをして子供にお菓子を配るイベントをやるんだって。見たかったなぁ」
「その話でしたら、SNSに画像が上がってましたよ」
ひかりが見せてくるスマホの画面を琴音は覗き込む。そこにはちびっ子たちに囲まれながらお菓子を配る、緑色の怪獣の着ぐるみに身を包んだ双葉の姿が映っていた。琴音は、ハロウィンに怪獣ってどうなのかな……と思いつつ、あまり細かいことを気にしない双葉ちゃんらしいな、と思い直す。その写真では、ちびっ子も双葉も、みんな楽しそうに笑っていた。
「今年の双葉ちゃんもかわいい。でも――せっかくだったら生で見たかったな。同じ学校の、生徒会役員として一緒にコスプレして、さ」
秋の夜長に、大好きな妹と姉妹で居られなくなった少女の声が消えていく。
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