第12話 義妹訪問 その1
お姉ちゃんと電話で喧嘩したあの日以来。わたしとお姉ちゃんの日課だった通話は途切れていた。せめてメッセを送ろうと何度も試みたけれど、下書きで打ってみた文章はどこか安っぽくて、お姉ちゃんに今以上に誤解されそうで、結局は全削除してしまっていた。
もう今日は金曜日の放課後だけれど、お姉ちゃんとのやりとりは未だないまま。
ーー今週末はお姉ちゃんとのデートはなしかな。って、3ヶ月前まではお姉ちゃんと会えるのなんて1月に1回だけだったじゃん。それに無理矢理自分の身体を慣らして、お姉ちゃんがいなくても生きていける身体にしたはずでしょ。なのに、また弱くなってるじゃん、わたし。
そう思うと掠れた笑い声が口から漏れ出る。
それは周りからも明らかにわかるほど態度に出ちゃっていたみたい。
「ふーちゃん先輩、何かお悩み事ですか?」
コーヒーカップをわたしの隣に起きつつ、葵ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ごめん。顔に出ちゃってたかな」
「そうっすね。今日の副会長はなんだか心ここにあらず、って感じで。恋煩いっすか?」
「こ、恋煩い⁉︎」
裏返った声を出してしまうわたし。けれど葵ちゃんの指摘はある意味正しいのかも。今のお姉ちゃんはわたしの彼女なんだし。でも、今の悩みを恋煩いって言い表したくないな。そんなことを考えていると
「もう茜! 先輩のことをいじらないの。ふぅちゃん先輩、今週はなんだか生徒会の仕事も上の空って感じですし、無理せず今日は帰ってください。あとはわたし達に任せて」
「えっ、でもまだ会長来てないし……」
「会長は今日もどうせ女の子のことナンパして来てないだけでしょう。いつも来てませんし、変わらないですって」
「う、それは……」
否定できない自分が辛い。
うちの生徒会長、勉強も運動もできる上に美人な、絵に描いたようなカリスマ生徒会長の女の子なんだけど、自体ともに認める女癖の悪さがたまに傷なんだよね。学校の女子生徒も女子生徒で、中性的な顔立ちをしていてどこか王子様的な会長に黄色い声を上げちゃうから、会長が懲りないところもあると思う……。
それから。わたしと葵ちゃんは暫く押し問答してだけれど結局、葵ちゃんに押し切られる形でわたしは生徒会室を追い出されちゃった。やっぱりわたしは妹だから、お姉ちゃん気質のある女の子に弱い……。いや、葵ちゃんも妹ではあるんだけど。
いつもよりだいぶ早い時間に校門を出てとぼとぼ帰途に着こうとした時だった。黒い日傘をさし、白いセーラー服に身を包んだ女の子がわたしに向かって手を振っているのに気づいた。まっすぐで艶やかな黒髪を肩まで伸ばした彼女に、わたしは見覚えがあった。そう、彼女は。
「ひ、ひかりさん⁉︎」
「お久しぶりですね、東さん」
そこにはお姉ちゃんの義妹のひかりさんがいた。今、世界で2番目に会いたくない相手だった。ちなみに一番会いたくない相手はお姉ちゃん。
「どうしてここに……というかひかりさんの学校からここって、かなり距離あるよ……ありますよね」
慌てて言い換えたわたしにひかりさんは口元に手を添えて微笑む。
「タメ口でも話しやすいように話してくれていいですよ。確かにわたしの方が東さんより一歳年上かもしれませんが、お姉様と東さんが結婚したら、東さんもわたしのお姉様になるんですし」
た、確かに……? ちょっと混乱してきた。そんなわたしにひかりさんはまた楽しそうに微笑む。
「と、とりあえずは丁寧語でいいです! それより、質問に答えてもらってもいいですか」
「はい。今日来た理由は至ってシンプルです。最近のお二人ーーお姉様と東さんを見ていたらもどかしくって、どうしてもお話ししてみたいことがあったので来ちゃいました。この後、ちょっとお時間頂けますか?」
お姉ちゃんの義妹が、わたしにお話?
正直困惑してる。けれどひかりさんがここまでやってくるのにかかった時間を考えると話も聞かずに追い返すことはできなかった。
「……わかりました。今日はいつもより帰りが早くて時間に余裕がありますし、いいですよ」
わたしの言葉にひかりさんは嬉しそうに小さく微笑んだ。そんな彼女はものすごく画になっていた。
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