第11話 【実績解除】お姉ちゃんと喧嘩しました……
その日の夜。
『双葉ちゃんから電話してくるなんて、明日は
「天気予報で明日の最低気温は21度って言ってた! そんな珍しいことじゃないでしょ、さすがの双葉も、ちょっとへこむよ⁉︎」
わたしから掛けた電話が繋がったかと思うと。驚いたように言うお姉ちゃんにわたしはついつっこんじゃう。
ても、お姉ちゃんがそんな反応をするのも無理はないかも。この2ヶ月間、わたしはずっと受け身で、通話もデートのお誘いも、いつもリードするのはお姉ちゃんの方からだったから。そんなわたしの変わった行動に、お姉ちゃんはボケつつもどこか嬉しそうだった。
そんなお姉ちゃんにわたしはちょっぴり罪悪感を抱く。お姉ちゃんに電話したのは恋人として、ってことじゃなかったから。今日の放課後に小山内さん達に言われたことが気になって、久しぶりにお姉ちゃんに『妹』として電話したくなっちゃった。
わたしは一呼吸置いてから、「ま、それはそれとして」と本題に入る。
「まだ普通に同居してた時も含めて、双葉とこと……お姉ちゃんって姉妹喧嘩したことなかったよね?」
『そ、そう言われてみるとそうね』
なんの脈絡もない話をするわたしにお姉ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような反応をする――気がした。
「双葉、同居してた頃は特にお姉ちゃんに甘えてばっかりだったけれど、双葉のことを嫌いになったりしたことなかった? 双葉のことを叱ったり、当分話聞きたくない! とか思ったことだとか」
『——双葉ちゃん、何がいいたいの?』
お姉ちゃんの声のトーンが1オクターブ下がる。けれど電話越しだから、わたしはその変化に気づかなかった。だから。
「いや、姉妹喧嘩とか、姉妹っぽくていいな〜って、最近ちょっと思うことがあって。そういうことも姉妹でいられるうちでしたかったな、ってちょっぴり思っちゃって」
何気なく口にしたつもりの台詞。けれどそれは、お姉ちゃんの心の琴線に触れてしまうものだった。
「……つまり双葉ちゃんは、わたしと姉妹喧嘩がしたいの? わたしは双葉ちゃんの彼女に相応しくないってこと? わたし、双葉ちゃんに引かれない程度に、でも恋人として着実に距離を詰めようと精一杯頑張ってるつもりなのに」
「えっ、いや、特にそういうつもりじゃ……。だいたい、わたしは今の恋人同士の関係に不満があるって言ってるわけじゃないし、そもそも不満なんて……」
ない、と断言しようとしたけれど、できなかった。お姉ちゃんがわたしと恋人になろうと超がつくほど真面目になってくれてるのは確かに嬉しいし、離れ離れで何ヶ月も声すら聞けないより、たとえ姉妹ではない形だとしても、毎日声を聞いて、週末に会える今の方がいいに決まってる。
でも、どうしてもわたしはお姉ちゃんと姉妹で居続けることの未練を完全に断ち切ることができなかった。
そんなわたしの曖昧な反応を、お姉ちゃんは曲解したようだった。
「つまり、うまく『お姉ちゃん』ができなかったわたしのことを双葉ちゃんまで責めるっていうのね」
えっ、それはどういうこと……? その疑問を口にする前にお姉ちゃんは畳み掛けてくる。
「こっちの気持ちも知らないで。ずっと双葉ちゃんに嫌われたくなくて、双葉ちゃんと嫌な雰囲気になりたくなくて本当の気持ちを隠して、今でも双葉ちゃんに絶縁されるのが怖くて全てを曝け出さないように気を使ってるのに……なんでそんな酷いこと言うの⁉︎」
そんな風に一方的にお姉ちゃんに訳のわからないことを言われて、わたしも段々と困惑を通り越して堪忍袋の緒が切れてきた
「今のお姉ちゃんが何を言いたいのか全然わからないけど……わたしに言いたいことがあったならはっきり言えば良かったじゃん。わたしに嫌われるのが嫌だから本当のことを言わない、って何? そんなの姉妹っぽくなくし、そんな優しさは、わたしは全然嬉しくない! お姉ちゃんだけ我慢して、喧嘩を避けてたくらいだったら、わたしはお姉ちゃんに本音をぶつけてほしかったよ!」
普段のお姉ちゃんの前で可愛く見せたくてはじめた『双葉』という一人称も忘れて声を荒げるわたしにお姉ちゃんもますますヒートアップする。
『姉妹っぽくない、って、わたしだって双葉ちゃんのお姉ちゃんであるために頑張ってきたつもりだった! わたし、本当は双葉ちゃんのお姉ちゃんになんてなりたくなかったのに』
『わたしのお姉ちゃんになりたくなかった』、その言葉は、いよいよ聞き捨てならなかった。
「それ、初耳なんだけど。わたし、無理して作ったお姉ちゃんでいてほしくてお姉ちゃんに甘えてたわけじゃない! もしそうなら、今だってこうして無理に電話になんか出ないでよ! 無理に恋人になろうとしないでよ! そんな風に付き合われても迷惑だよ!」
「そういうことは言ってないでしょう? それに言えるわけがないじゃない。本当のことを言ったら引かれて、双葉ちゃんの隣に『お姉ちゃん』としてすらいれなくなっちゃうから」
「??? ほんと、さっきからお姉ちゃんが言ってること、全っ然わかんないよ! もっとわかるように話してくれなきゃ理解できない!」
そこからはもうめちゃくちゃだった。
持って回った言い方を続けるお姉ちゃんにわたしは突っかかって、結局、姉妹喧嘩なのか恋人としての喧嘩なのかわからない、はじめてのお姉ちゃんとの喧嘩は荒れに荒れて――――――――――――最終的にはどちらともなく通話を切った。
お姉ちゃんとの通話が切れた途端。
さっきまで感じてた苛立ちは急に引いて不安と後悔が込み上げてくる。
――姉ちゃん、もう二度とわたしと口を聞いてくれなくなっちゃうんじゃないかな。喧嘩してみたいなんて言わなきゃ良かった。お姉ちゃんとの喧嘩って、こんなに苦くて、胸が締め付けられるものなんだ。
そう後悔しても、それは後の祭りだった。
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