第10話 姉妹ってなんだろう 出題編


 お姉ちゃんと付き合い初めてから早くも2ヶ月。その間、わたしとお姉ちゃんは本当のカップルのように一緒の時を重ねた。毎日寝る前にはおやすみの電話をして、週末はデートする。お姉ちゃんと恋人らしいことをしている時間は本当に楽しくて、時が経つのも忘れるくらい、夢中になれた。


 けれど、いざ一人になると時たま、わたしとお姉ちゃんって本当にこのままでいいのかな、と考えることが増えてきた。本当にわたしはお姉ちゃんと恋人のままで居ていいのかな、って。



 その日も、学校でお昼ご飯を食べ終わって一息ついた瞬間に、ふとそんな疑念が心に浮かぶ。それが授業中もずっと心の中心に陣取って、午後の授業は上の空だった。


「——こんなんじゃダメ。放課後は生徒会の仕事なんだから、切り替えなくちゃ」


 帰りのホームルームが終わってから。わたしは独り言を呟きながら生徒会室に向かう。実はわたしはこの学校の生徒会副会長を務めてる。だから、放課後は生徒会の仕事があるんだ。


 生徒会室の前までやって来て扉に手をかけようとした時。中からよく似た二人の女の子の声が聞こえた。声だけで誰かわかった。彼女らは小山内茜さんと小山内葵さん。


 二人は双子の姉妹で、姉妹揃って生徒会役員を務めていた。そんな仲睦まじい2人の関係はみているだけでみてる方まで微笑ましい気持ちにさせてくれる。


「こんにちは小山内さん達。今日は早いね。お疲れ様」


「あ、副会長。こんにちはっす」


「ふうちゃん先輩、こんにちは〜」


 生徒会室の扉を開きながら声をかけると二人は声を重ね合わせて挨拶してくれる。その挨拶の仕方は二人の対照的な性格の違いが出てる。けれど、妙に息が合ってるところがあってさすが姉妹だなと思わされる。そしてわたしは、そんな2人を見てて、ちょっぴり心が痛くなる時が正直に言うとある。


「先輩、珈琲飲みますよね? わたし淹れます」


「葵、わたしにもおかわり欲しいっす」


「茜、もう飲みきっちゃったの⁉︎ というか自分でやりなよ」


「うへぇ〜、葵のケチ」


 そう軽口を叩きながらも2人で仲良くわたしの分を含めた珈琲を用意してくれる小山内さんたち。そんな2人に大人げもなく妬ましさを感じちゃってわたしは


「2人ってほんと仲良いよね」


と、ちょっと意地悪なことを言ってしまう。すると二人は顔を見合わせて不思議そうな表情をし、そして


「「それはないですって~」」


とまた、仲良く声を重ね合わせて言う。


「だって葵って細かいことに厳しいんっすよ。そんなことどうでもいいじゃん、っていうことばっかり拘って」


「逆に茜が大雑把すぎるのよ。茜の方がお姉ちゃんなのに、ほんとだらしない姉を持った妹は辛いわ~」


「双子の妹ったって、たった7分20秒、この世界に産み落とされるのが遅かっただけじゃないっすか。そんなことでマウント取らないでほしいっす」


「えっ、わたし、妹であることでマウント取ってたことになるの……?」


 そんな掛け合いも生まれてきてからずっと一緒にいる二人だからこそ成立するものなんだろう。そんな二人が微笑ましく、けれど同時に自分はお姉ちゃんと二度とそういう距離感にはなれないんだろうな、と思うと心が痛くなった。


「そういえば副会長も生き別れの姉妹がいるんすよね」


「えっ? あ、うん」


 唐突に話題を振られて心の準備ができていなかったわたしはへんな受け答えをしてしまう。そう言えばわたし、生徒会メンバーにはお姉ちゃんがいることを話してたっけ。


「って、別に生き別れってほど大袈裟じゃないよ。両親の離婚で姉妹じゃなくなっちゃった『元』お姉ちゃんがいるってだけ」


「血は繋がってるんだから別居してても『元』なんてつけなくても普通に姉妹でいいと思いますけど……それにしても意外ですね、ふうちゃん先輩にお姉さんがいて、妹だなんて」


 葵さんの言葉の意味がわからずにわたしは葵さんのことを見つめてしまうと、得心がいったように大きく頷いていた茜さんが言葉を続ける。


「副会長って、なんか妹のイメージないんすよね。お姉様! って感じではないですけど、親しみやすい、みんなのお姉ちゃんみたいな感じで。入ったばかりで右も左もわからなかったわたし達新入生に親身になって生徒会の仕事を教えてくれましたし、学年問わず生徒の悩み事には真剣に相談に乗ってくれる上に話しやすい、って好評ですし」


「うんうん、それにふうちゃん先輩って呼び方も快く許してくれましたし、今だっていつも、わたし達がキャパオーバーになってないか気にかけてくれますし」


「葵のその呼び方は先輩をナメすぎだと思いますけど」


「えー、そんなことなくない⁉︎」


「あはは、双葉は気にしてないから呼びやすい呼び方で読んでくれていいよ。むしろ親しみを込めて呼んでくれて嬉しい」


 わたしの言葉に口論をはじめかけた葵さんと茜さんは静まる。


「まあ副会長がそれでいいならいいっすけど……とにかく、わたし達から見たら副会長は良いお姉さんなんすよ。だから副会長が妹さんってイメージがなくて。きっと副会長の姉妹仲は良かったんだろうなぁ」


「喧嘩とかもあまりしなそうですよね。姉のおつむがちょっと残念なせいで姉妹喧嘩ばっかりしてるうちと違って」


「なにおう!」


 そしてまたじゃれ付き合う2人。けれどわたしは既に二人のじゃれつき合いを気にしていなかった。


 ーーそう言えばわたしとお姉ちゃん、姉妹喧嘩なんてしたことなかったな。わたしの言ったことを、お姉ちゃんはいつも受け止めてくれたから。けれどそれって、姉妹っぽくなかったのかな。


 そんなことをふと思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る