第5話 【実績解除】お姉ちゃんとデートすることになりました


 お姉ちゃんからはじめてお休みの電話があった日以降。わたしとお姉ちゃんは少なくとも1日に1回は恋人として電話するようになった。


 けれど、電話をするたびに普段は対面で会えずに電話でしかお姉ちゃんの声を聴けないもどかしさや、こうしている間にもひかりさんはわたしの知らないお姉ちゃんと時を重ねて行っているんだろうな、という焦燥感が募った。そんな時だった。


「——やっぱり電話だけじゃわたし、我慢できない。双葉ちゃんに会いたい」


 電話越しにぽろっとお姉ちゃんが漏らしたかと思うと。


「わたし達付き合ってるんだから、これまでよりも頻繁にあったっていいよね。だから今週末、また二人で会わない? 付き合い始めてから初めてのデートとしてさ」


 お姉ちゃんは唐突に、そんなとんでもないことを言ってきた。両親にわたし達が会っていることがバレるリスクを鑑みると、こんな早い段階で、またお姉ちゃんと会うのはリスクが高すぎる。けれど、わたしだってお姉ちゃんに会いたい気持ちを抑えられなかった。だから。


「……いいの? やった!」


と正直な言葉が漏れてしまった。


「それにしても、デートっていつものとはどう違うの?」


 わたしの素朴な疑問にお姉ちゃんは今日もちょっとむっとしたように


「違うわよ! 双葉ちゃんがそんな調子なら、わたしが完璧なデートプランを立てて、恋人同士のデートがなんたるかを教えてあげるから、覚悟して待っててよね!」


と言って、一方的に電話が切られる。


 いつものことだけどお姉ちゃんはわたしと恋人になるために生真面目すぎるみたいだ。ちょっと空回りしてる気もするけど、そんな張り切ったお姉ちゃんがわたしのために立ててくれるデートプランを楽しみにしてる自分がいた。


◇◇◇


 そして迎えたデート当日。


「ごめんなさい、ちょっと待たせちゃったかしら」


そう言って前髪をかき分けながらわたしが来た方向と反対側からやってきたお姉ちゃんの妖艶さにわたしは息を呑む。


 これまでのお姉ちゃんの私服といえば白のワンピースなどの清楚なイメージのものが多かった。けれど今日のお姉ちゃんのコーデはそれとはだいぶ印象が違う。


 トップスにはキャミソールにオフショルダーのクリーム色のしたカーディガンを羽織って、華奢な肩と滑らかなおへそが露になっている。そしてボトムスはちょっとだぼっとした紺のワイドデニム。


 制服すら着崩したことのないお姉ちゃんからは考えられないそんな大胆なファッションに、そして露になったお姉ちゃんの透き通るような素肌に、わたしの目は釘付けになる。


 そんなわたしに気づいたお姉ちゃんはニヤニヤとしながらわたしの顔を覗き込んでくる。


「そんないやらしい目で凝視してるってことは、双葉ちゃんも少しはわたしのことを女の子として意識して、欲情してくれてる、ってことでいいのかな?」


 そう言われてわたしの頬はかあっと熱くなる。


「べ、べつに! 普段の琴音ちゃんだったら絶対にしないようなファッションでちょっと驚いちゃっただけだし! お姉ちゃん、そんなに肩とお腹を出してたら風邪ひいちゃうよ」


 わたしの照れ隠しにお姉ちゃんはくすり、と笑う。


「風邪をひく心配は無用よ。女の子は好きな人とのデートでは少しでも自分を女の子としてみてもらうためなら少しぐらいの我慢はするものだから。逆にここまでやらないとデートっぽくない。まあ、双葉ちゃんがわたしを意識しすぎて目のやり場に困る、っていうならちょっと考えるけど」


 面白がるようにわたしのことを見つめて来るお姉ちゃん。


「そ、そんなことないよ! だいたい、琴音ちゃんとは3年前まで一緒にお風呂入っていたし、今更お姉ちゃんの裸なんて見たって、面白くもなんとないよ!」


「まあ、そういうことにしておいてあげましょう。それにしても……双葉ちゃんのコーデは今日もいつも通りね」


 お姉ちゃんに言われてわたしは改めて自分のことを顧みる。確かにわたしのファッションは猫の絵がプリントされたパーカーにネイビーのジーンズをはいている。これはわたしとお姉ちゃんが恋人になった一ヶ月前と同じ格好だ。


「……双葉ちゃんって昔っから自分のコーデとか興味なくて、服も毎回わたしが選んでたわよね。双葉ちゃんのセンス、一人で服を買うようになってから余計に酷くなってない? 特にその猫パーカー、ダサくないかしら?」


 お姉ちゃんの聞き捨てならない台詞に流石にわたしもむっとする。


「別に服装に無頓着でもいいでしょ!」


「まあそうだけど、双葉ちゃんのかわいさは磨けば光る原石みたいなものなんだから、しっかりとした服装をしないと勿体無くない? 少なくともわたしは、可愛くなった双葉ちゃんを見てみたいけど」


「それは別に琴音ちゃんが自分で着飾って鏡に自分の姿を映してみてみればよくない? 双葉と琴音ちゃんは身長も見た目もほぼ同じなんだし、双葉より琴音ちゃんの方が似合いそうだし」


「そう言う話じゃないんだけどなぁ」


 ぷくっと頬を膨らませるお姉ちゃん。けれどわたしはそれを無視する。


「それに、ボトムスは確かに適当だけど、トップスは双葉にとって最大のお洒落をしてるつもりだよ。子供の頃、最初に琴音ちゃんが選んでくれたわたしの服にプリントされてたのがこの猫のキャラクターだったから。そんな思い出のキャラクターのプリントされた服以外で琴音ちゃんと会うなんか考えられないし、この猫を侮辱するなんて、琴音ちゃんでも怒るよ!?」


 今でも明確に思い出せる。わたしが五歳、お姉ちゃんが六歳の頃。はじめて両親がショッピングセンターに連れて行ってくれて、その時に自分の好きな服を選ばせてくれると言ってくれたんだ。


 その時、わたしは何を択んだらいいかわからなかった。そんなわたしに、お姉ちゃんはあどけない笑みを浮かべて


「かわいいふたばちゃんには、きっとこのねこちゃんがにあうよ!」


と言ってくれたんだ。その前からお姉ちゃんのことは大好きだったけれど、あの時、更にお姉ちゃんのことが好きになってしまった。


 わたしの抗議に琴音ちゃんの頬は、急にりんご飴みたいに朱が刺す。それから恥ずかしそうにもぞもぞしながら


「ほんと双葉ちゃんは無自覚にとんでもないことばっかりいうよね」


とわたしを責めてくる。


「でも、そういうことならそのコーデのままでいいわ。それよりも、そろそろ行きましょう。時間がなくなっちゃうわ」


 お姉ちゃんが差し出した手をわたしはとる。繋いだ手からはお姉ちゃんの体温が直に伝わってきた。

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