第2話 妹で居られないのならば彼女になってしまえばいいじゃない!
「ごめんなさい、よく状況がわかっていないのですが」
そう前置きしておずおずと手を挙げたのはお姉ちゃんが連れてきた黒髪少女——西園ひかりさんだった。
「東さんはお姉さまの『特別』になりたいんですか?」
わたし以外の人がお姉ちゃんのことを『お姉さま』と呼ぶことにちょっと心がざわつく。けれど、いちいちそれを言ったところで話が進まないのでわたしはぶっきらぼうに「そうだよ」と答える。
「これまではお姉ちゃんの妹は双葉だけで、それだけでお姉ちゃんの『特別』で居られた。お姉ちゃんと別居する時も寂しかったけれど、それでもお姉ちゃんの妹は双葉だけで、双葉はお姉ちゃんの特別で居続けられるということが心の拠り所になってなんとか我慢できた。なのに――お姉ちゃんに他の妹が出来ちゃったら、双葉はもう、お姉ちゃんの『特別』じゃなくなっちゃうじゃん。双葉の特等席を、奪わないでよ……」
「それなら、東さんはお姉さまとお付き合いしたらいいのではないですか?」
「ほへっ?」
突然とんでもないことを言いだしたひかりさんにわたしはつい変な声を出してしまう。それについてはお姉ちゃんも驚いたみたい。
「ひ、ひかりちゃん⁉ ちょっと何を言ってるの……」
「言葉通りの意味です。東さんはお姉さまの『特別』であり続けたい。けれど、『妹』としてはもう傍にいられない。だったら、恋人になれば二人はまた、『特別』になれるんじゃないのでしょうか」
「付き合うって……双葉たち、血の繋がった姉妹なんだよ⁉ 姉妹でお付き合いするなんて」
「今のお二人は『姉妹』じゃないんですよね?」
「そ、それはそうだけど、そんなの」
「今のお二人は別居してますし苗字も違いますよね? それなのに、姉妹であることを理由につきあえないんですか?」
わたしの反論はひかりさんにすぐに完封されてわたしは口を噤む。
「それに女の子同士であるお姉さまと東さんではえっちなことをしても赤ちゃんはできないんですよ? 血が濃くなることなんてない。例え姉妹であっても何の問題があるのですか?」
心底不思議そうに小首を傾げる夏凜さん。この子、見た目ではお姉ちゃんと同じく清楚だけれど、中身は割とぶっとんでるのかもしれない……。
「でもでも! お姉ちゃんとわたしは姉妹である以前に女の子同士だよ? そりゃ、わたしはお姉ちゃんの『特別』で居られるなら何でも嬉しいし、お姉ちゃんとお付き合いすることもほんのちょっぴりは興味が、ある。けれど、お姉ちゃんは女の子と、わたしと付き合うとか、きっと気持ち悪いんじゃ」
「わかったわ。付き合いましょう」
これまで黙っていたお姉ちゃんの言葉に、わたしはつい息を飲む。
「これまで男の子が好きとか女の子が好きとかあまり意識したことはなかったけれど、今のご時世女の子同士で付き合うのも当たり前だし、少なくとも双葉ちゃんとなら嫌じゃ、ない。何より、何もしないでいつまでも双葉ちゃんに哀しい顔をさせる方がわたしは嫌かな。だから」
そこで言葉をいったん切って、お姉ちゃんは不意にわたしの両肩を掴んでまっすぐにわたしの目を見つめてくる。そのあまりの近さにわたしの胸の鼓動はとくん、と大きく跳ね上がる。
改めて間近で見るとお姉ちゃんって睫毛が長くて綺麗だな、なんて、どうでもいいことが頭を過った。そして。
「だからふ、双葉ちゃん。もし双葉ちゃんがよければお付き合いしましょう? お付き合いして、『特別』のままでいましょう?」
思いもよらなかったお姉ちゃんからの告白。お姉ちゃんも言っていてちょっと恥ずかしいのか、その頬には朱がさしていた。そんなお姉ちゃんにわたしのこころは奪われて「は、はい……」と小声で言うことくらいしかできなかった。
そんなわたしとお姉ちゃんのことを興味深そうに見比べて、夏凜さんは満面の笑みを浮かべる。
「これで、お似合い百合っプルの完成ですね!」
……
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