第1話 妹じゃなくなった日
わたし・
いや、普通の姉妹に比べたらわたしのお姉ちゃんに対する愛はちょっとだけ重めで、ことあるごとにお姉ちゃんのことしか話さないわたしを見て友達からは「双葉は重度のシスコンだねぇ」なんて揶揄われていたけれど、まあ普通の範疇だった……と思う。
そしてそんなわたしのことを、お姉ちゃんは突き放したりすることはなかった。ごくたまにわたしが無茶なことをいうと困ったような表情を見せることはあったけれど、いつも優しくわたしの面倒を見てくれた。そんなお姉ちゃんに、わたしは更に惹かれてしまった。
「双葉、お姉ちゃんのこと大好き!」
「ふふ。わたしも双葉ちゃんのこと、大好きよ」
「うんうん。双葉の方がお姉ちゃんよりずっとずっと、ずぅーっと、お姉ちゃんのことが好きだもん!」
そんなよくわからない張り合いをよくしていたのも懐かしい。わたし達は、世界でも一番って言っていいくらい仲の良い姉妹だった。けれど。
2年前、わたし達の両親は離婚し、わたしはお父さんに、お姉ちゃんはお母さんに、それぞれ引き取られて別居することになった。もう何年も前から二人には離婚の兆候があった。夫婦仲は冷めきって、家の中の空気が張り詰めていたからこそ、わたしとお姉ちゃんが他の姉妹以上に距離が近かったのもあるのかもしれない。
そして両親が離婚する際、普通だったら姉妹不分離の原則と言って、離婚する夫婦に子供が複数いる場合は姉妹を分離させずに一人の親を親権者に指定すべき、という原則があるらしい。けれど、わたしたちの両親の前ではそんな原則は何の意味も持たなかった。
わたし達の両親は互いに子供を引き取ることに拘った。それは自分たちで言うのもアレだけど、わたしもお姉ちゃんもそこそこ容姿端麗で成績も運動神経も良かった優秀な子供というのもあったんだと思う。わたしの両親は半ば自分のステータスとして、子供であるわたし達を自分が引き取ると言って双方ともに譲らなかった。
そして不毛な交渉の結果。わたし達の両親は最悪の答え――お母さんはお姉ちゃんを、お父さんはわたしを引き取るということで渋々納得した。そして両親はよっぽど相手のことが嫌いなのか、わたしとお姉ちゃんにこう命じた。
『今後いかなる時でも姉妹で会うな』
と。よっぽど相手との縁を切りたかったらしい。
そんな両親にわたしとお姉ちゃんはある意味、ものわかりがよすぎたんだと思う。両親は二人とも毎日残業で帰りが遅いこともあって、なるべく両親に負担をかけたくない、と思ってしまった。だからお姉ちゃんと別れる時も、本当は泣きじゃくって駄々をこねたい気持ちをぐっと我慢して、笑顔でお父さんの提案を「いいよ」と言ってしまった。けれど。
わたしはやっぱりお姉ちゃんのことが忘れられなかった。だからお姉ちゃんとこっそり相談して、月一回だけ、お互いに住んでいる市とは違う市で、親たちには内緒で会うことを決めた。
お姉ちゃんと一緒に過ごせるのは一か月の内たった数時間だけ。けれどその時間でわたしはどれだけ救われたかわからない。お姉ちゃんと別居してからと言うものの、お姉ちゃんと会えるこの日が、わたしの月一回の一番の楽しみだった。
そして今日。いつものようにわくわくとした気持ちでお姉ちゃんのことを待っていると。なぜかお姉ちゃんは黒髪の美少女を連れてきた。
わたし達よりも少し背は高くて、整った顔立ちをしている。背中まで伸ばした黒髪は艶やかで、同性のわたしが見ても、美人だな、とため息が出てしまった。
——お姉ちゃんの友達か彼女さんかな。お姉ちゃん、べつに女の子にそういう感情を抱くイメージはなかったけれど。
そんなことをふと考えてると。お姉ちゃんは開口一番、とんでもないことを言いだした。
「突然だけど……わたし達のお母さん、一週間前に再婚してね。お義父さん――再婚相手の男の人にわたしより3か月誕生日が遅い連れ子の女の子がいて……要するに義理の妹ができたんだ。それがこちらの、ひかりちゃん」
義妹。その言葉に、わたしの全身の血の気はすうっと引いていった。そして次の瞬間、無性に怖くなってくる。
——お姉ちゃんに義妹なんてできたら、同居すらできていないわたしはどうなるの? ただでさえわたしがお姉ちゃんの『妹』で居続けるのは両親から許されていないのに。お姉ちゃんのすぐ近くに『妹』が出来ちゃったら、わたしがお姉ちゃんの『特別』でいられることは何もなくなっちゃう!
そんな思いが頭を過ったわたしは頭の中がぐちゃぐちゃになった。そして、わたしは叫んでしまった。
「酷いよお姉ちゃん! 双葉という女がいながら、他の女の子を妹にするなんて!」
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