彼女に電話を掛けるなら、花火が終わってからがいいだろうと思った。



 花火が終われば社辺りの人は減るし、待ち合わせには場所的にいい。



 花火が見える社に着くまでに、何度も生徒に声を掛けられ、結局最後に声を掛けてきた女子生徒達と花火を見る羽目になった。



 花火を見ながら彼女が近くにいないかと探したけど姿はなく、打ち上げられる花火を見上げ、彼女と見たいと密かに思う。



 来年はまだ無理だけど再来年は一緒に見る事が出来るだろうか――と。



 それまで彼女の気持ちが変わっていなければいいのにと願う。



 子供の気持ちなんて一過性のものだろうと思いながら、そうでない事を只管ひたすらに願う。



 花火が終わると早々に女子生徒達とは別れた。



 社の近くで人が少なくなるのを静かに待った。



 広場にポツポツとしか人がいなくなった頃、俺はようやくスマホを取り出して、画面に彼女の番号を表示させる。



 俺からは、彼女に滅多に連絡はしない。



 それは深入りしないようにという、ズルい大人の逃げ。



 だからスマホを見つめながら、彼女に掛けるかどうかを迷う。



 これを掛ければ完全に足を踏み入れた事になる。



 子供の彼女には分からないだろう。



 教師と生徒が付き合うという事のリスクの大きさがどれほどのものか。



 教師の俺が人生を賭けてる事を分かっていないだろう。



 バレたら最後、俺の人生は狂う。



 でもそれを彼女には知って欲しくない。



 この関係がどういうものか、本当の意味での事の重大さに気付いて、彼女が怖気おじけづかないようにと思ってる。



 怖気づいて逃げないように、彼女が知るのを回避している。



 人生を賭ける価値があるのか。



 子供相手に。



 完全に踏み込んだらもう逃げられはしない。



 それでも――。



 親指が、スマホ画面の通話発信部分に触れた。



『も、もしもし!?』


 何度目かの呼び出し音のあと、スマホの向こうから彼女の声が聞こえた。

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