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「ちょっと聞いてよ! マジ最悪!」
社近くにある
けど、はぐれてる間に何やらあったらしい麻里亜は、あたしの顔を見るなり不機嫌を
「ムカつくんだけど!」
「え? 何? 何が?」
何事かと、助けを求めて伊織に目を向けると、伊織は今まで散々麻里亜の文句を聞いてたらしく、「やれやれ」って感じの笑いをあたしに見せた。
「ちょっと! 聞いてってば!」
「き、聞いてるよ!?」
「あんた達がいなくなったの気付いてから探してたんだけどさ!?」
「う、うん」
「そしたら、渋谷ちゃん見つけたのね!?」
「渋谷先生?」
「そう! 渋谷ちゃん! いたの! 祭り行かないって言ってたのにいたの!」
「へ、へえ……」
「誰といたと思う!?」
「さ、さあ……?」
「誰だと思う!?」
「わ、分かんな――」
「他のクラスの女子軍団といたんだけど!」
「ほ、他の……?」
「そう! びっくりでしょ!? 何で他のクラスの女子達といるんだって話でしょ!? 行かないって言ってたから誘わなかったのに! 誘って一緒に行ってくれんなら誘ったのに!」
「ま、麻里亜、落ち着い――」
「しかも何してたと思う!? 何してたと思う!? 何してたと思うか言ってみな!」
「さ、さあ……、何だろ……」
「何と、みんなで楽しそうに金魚すくいしてんだよ!? 周りの女子、キャーキャー言ってやがんの!」
「へ、へえ……」
「ムカつくんだけど! マジでムカつくんだけど! わたし達の担任なのに、何で他のクラスの奴らと一緒にいんの!?」
物凄い勢いで怒り狂う麻里亜から、思わず長嶺にチラリと目を向けてしまった。
いくら麻里亜の言ってる相手が学校の先生だからって、好きな相手のこんな話、長嶺からしたら聞きたくないと思う。
でも長嶺は
相手が先生だから麻里亜の気持ちを本気だとは思ってない感じ。
お気に入りのヌイグルミだとか玩具だとかを取られた子供を見てるって感じ。
意外と大人な長嶺は、「まあまあ」と
まだ文句を言い足りないって感じの麻里亜も、これ以上言っても仕方ないと思ったのか、渋々って感じで長嶺の後をついて人混みを進んでいく。
あたしと伊織はその後につき、はぐれないように必死で前に進んだ。
「渋谷先生見つけてから、麻里亜ずっとあの調子でさ」
クスクスと笑いながら小さな声で話し掛けてきた伊織は、「参ったよ」って付け加えた割には大して気にしてない感じで。
「いつ見つけたの?」
「二十分くらい前かな?」
どっちかって言えば麻里亜の
バカにしてるって意味じゃなく、いつもの事だからもう笑えるって感じは、あたしにも分かるから一緒にクスクス笑った。
「でも流石だなって思ったんだよね」
「流石って何が?」
「あたし達、天音と飯垣君がいなくて必死で探してたんだけど、あの人混みじゃん? 当然見つけられなくてさ? テンパッてたから電話すればいいって事忘れてて」
「うん」
「なのに渋谷先生見つけちゃう麻里亜って凄いなって思って。あの人混みで見つけられるって相当じゃない?」
「あ――うん」
「麻里亜って案外、マジで渋谷先生の事好きなのかもね」
「そ……だね」
返事が中途半端になってしまったのは「ある事」が頭を
伊織の話を聞きながら、分かりたくない事が分かってしまった。
閃いたって感じのその「ある事」に、あたしの歩調は自然とゆっくりになっていく。
そんなあたしに気付かずに、伊織はどんどん進んでいく。
その所為であたしと伊織の間に距離が出来る。
そしてそれと正反対に、最後尾にいた飯垣との距離が縮まって、
「ね、ねえ」
振り返るとすぐ傍に飯垣がいた。
例えば人混みでも見つけてしまう事。
例えば名前を知ってる事。
例えばまるで探すように常に人混みに目を向けてる事。
友達の為にも気付かない方がいい事に、あたしは気付いた。
その気付きが、確実なものとなってしまえば、友達の前で今まで通りには出来ないかもしれない。
でも。
「飯垣、あんた藍子が好きなの?」
あたしは気付いた「ある事」を口に出さずにいられなかった。
あたしの問いに飯垣は、見つめ返すだけ。
何も言わず、表情も変える事なく、ただ見つめてた。
直後に前方から「天音、何やってんの! またはぐれるよ!」と、麻里亜の声が飛んできて、あたしと飯垣の会話は強制的に終了になった。
ただ、多分それがなかったとしても、飯垣はずっと何も言わなかったと思う。
決してその答えを口にする事はなかったと思う。
だって人は、本当に大切な事は誰にも言わないものだから。
――大切な想いは自分の胸の中だけに仕舞ってある。
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