人生で一番憎い人

麻衣「ただいま〜」


祖母「いらっしゃ〜、、あっ麻衣かあ!おかえりぃ〜!」


祖父母は小さなクリーニング店を営んでいる。


麻衣「また'あの人"が出てこないから来た」


祖母「ま〜たそうか!あはは!まあまあ、麻衣のことあれでもすごく可愛いんだから、あの人なんて言わないの、お母さんなんだから」


そう、私の言う'あの人"とはお母さんのこと。


でも私はあの人の事を一度もお母さんだと思ったことはない。


実の母親ではあるが、お母さんなんて呼びたくない。


はぁ〜でた、、


相変わらずおばあちゃんのこの、ノー天気ぶりというかうんざりだわ…


祖母はとても明るく豪快にガハガハ笑いながらお客さんと話が盛り上がるタイプだ。


祖母「お腹すいてるだろ〜!味噌おにぎり食べるかあ〜?」


麻衣「食べる〜」


…うまい。小さい頃からおばあちゃんがよく作ってくれる味噌おにぎり。


余ったご飯を丸く平べったくして両側に味噌を塗って

トースターでチンするだけなのだが、美味い。


この味は昔から好き。


父「ただいま〜」


祖母「あ〜おかえりなさい〜!」


父「麻衣きてるよね〜?」


祖母「うん!また麻衣にボタン付け手伝ってもらってる〜!麻衣は一番ボタン付けうまいからな〜」


祖父母のクリーニング店では、クリーニングの受付の他、洋服のお直しや、依頼された制服などの新品の洋服を作ったりもしている。


私もたまに、新しく作る洋服のボタンを縫って付けたり、裏地を付けたり手伝っている。


こういう地道にコツコツ作業するのが大好きだ。


時間がかかっても出来上がった洋服の山を見ると

とても達成感がある。


父「じゃあ麻衣そろそろ帰るか」


麻衣「うん」


祖母「じゃあまたな〜おやすみな〜」


麻衣「じゃね〜おやすみ〜!」


麻衣「はぁー、鍵置き忘れてさあーまじサイアクだったよ、てかあの人なんで家ん中いるのに出てこないわけ?!まじ何してんの?信じらんないんだけど?!?!あーっもう!!」


父「…なぁ〜…。」


ガチャ


父「ただいま〜」



あ〜イライラする


旦那が帰ってきてんだからしゃんと挨拶せいっ!


てか家ん中どんだけ汚くすれば気が済むんだよ


玄関入り口には謎の置物


玄関ドアの取っ手には何故か長タオルがかかっている


玄関天井にはのれんのような謎の薄っぺらい布が垂れている


出入りする時非常に邪魔くさい


家族構成は、私、父、母+猫

の3人家族のはずなのに

何故か靴で埋め尽くされる玄関


廊下も沢山の物で歩く場所が狭まっている


壁には沢山の貼り紙


新聞の切り抜きやら


「電気消せ!」の文字を書いた紙が貼ってある


トイレの個室にも


収納ケースにびっしりと謎のプリントやら何のお知らせかわからない紙などで溢れている


壁にも謎の貼り紙だらけでどこを向いても本来の壁を見ることはできない


リビングは足の踏み場もないくらい物で溢れている


鞄やら使いもしない便利グッズ等の山が壁沿いにある


そのうち物で窒息死しそうだ


そして最大の謎


誰も死んでないのに仏壇がある


真っ暗な部屋の中


テレビの明かりが散らかっている山々を照らしている


帰宅すると真っ暗なリビングで

テレビの液晶画面の明かりとゴミ山の影と、ボサボサの頭で寝そべっているあの人の影がデフォルトだ。


お父さんはそそくさと夕飯の準備をし始めた


私は手を洗い自分の部屋に向かう


しばらくしていると


お父さんが夕ご飯をのせたおぼんを持って

2階の私の部屋に持ってきてくれる


このように部屋で一人で食べるようになったのは

私と母の険悪なムードを見兼ねた父の計らいだ。


美味しい、父の料理はシェフ並みに美味だ。


いや、シェフの料理というものはよく分からないからここは、家庭料理界No. 1の料理というところか。


いつも思う


何でお父さんはお母さんと結婚したんだろう


お父さんて顔もカッコいい方だし


スタイルだって痩せ型で


ずっと野球をやっていたから


そこら辺のヒョロヒョロしてる男より断然良い体つき


(私がファザコン気質すぎ??)


中身はちょっと天然なところあるけどって私の遺伝かな?(⇦逆だ)


いつも優しくてバカ話をして場を和ませるタイプだ


自分よりもまず相手が楽に過ごしやすいように気を遣うような、そんなとても良い人だと思う。


だからこそ、あの人なんかの旦那で超絶もったいないと思う。


令和の時代に若く生まれ変われたら

主夫にしたい!ヒモにしたい!と言う女性が

沢山いるのでは?!と思ってしまう。


私がここまであの人を毛嫌いする理由は沢山ある。


まずは、幼稚園生の時


ーーー回想ーーー


もうすぐ夕飯の時間


お父さんは社員旅行に行って家に帰ってこないみたいだ


なんとなくお父さんがいないと面白くない


それに


お父さんの料理が恋しい


お母さんは料理を普段全くしない人なので

出されるものはレタスと黒糖パン、らっきょうの瓶というような感じだ



全然お腹いっぱいにならない


お父さん早く帰ってこないかなあ


母「ねえーえ何でこんなことすんの?!」


お母さんがいつものように怒ってる


なんの事で怒られてるのかわからない


母「お前の手が悪い!」


そう言いながら私の手を鉛筆の先でグリグリ押してくる、痛い。


お母さんの顔はいつも眉間にシワが寄っている


目を細めて鋭く睨んでくる


すぐに声を荒げて怒鳴り声が部屋に響く。


母「ったく上うるさいなあ」



私が幼稚園生の時は団地に住んでいたので

上階に他の住民がいた。どうやら夜勤勤務の方だったらしい。



母がいつも以上にイラついていて、その姿が怖かった


突然母が私の手を引いて上階の住民の部屋まで訪ねに行った


♪ピンポーン


出てきたのは、作業着らしき服を来た中年の男性だった


母「ちょっとうるさいんですけど!ほら、うちの子供も泣いちゃってるじゃないですか?!」


確かに私は泣いているが、それは

上の階の騒音に泣いてるのではなく

母親の怒り狂った姿が怖くて泣いているのだ


住人の男性は黙って話を聞いているような感じだ

時折私の方を見てくる

その視線は'こんな母親に育てられて可哀想に"

というふうに感じた


ーーー回想終了ーーー


今思い返しても、幼稚園生がお腹空かせるなんて

どんだけ少ないんだよ?!

と思うし、親なら子供がお腹空かせてる様子とか

ちゃんと見てれば気づくのでは?!とも思う。


父親が帰ってこなくて寂しそうだなとか

気づかないのかね?!

なんでそういうコミュニケーションを取ろうとしないのか不思議でたまらない。


常に自分の事しか考えられないような人だ。


何か気に食わない事があれば子供だろうが容赦しない

感情をぶつけないと気が済まない人だ。


それでも、たった一人の母親だ。


母親の愛情を一番欲してる時だ。


ご飯を作ってくれなくても

優しく微笑みかけてくれなくても

怒鳴られ続けても


仲良くしたいのだ。


家族3人で笑い合いたいのだ。


こんな事もあった。小学一年生の時


ーーー回想ーーー


母「なんで言う事聞けねーんだよ!!」


いつものように怒り狂う母親。


咄嗟に自分の部屋に逃げた


怖くて呼吸が乱れてくる


それでもどうにか仲良くしたい


手紙を書くことにした。


そこには、


私のこういうところは悪いかもしれないけど

お母さんのこういうところは直してほしい

これから仲良くしたいと思っている


そのような内容を書いた。


そしてその手紙を持ち


母のいる一階におりた


いつものように汚いリビング


母は雑誌やら服やらが散乱してるところに

寝そべりながら携帯をいじっていた


私はその母に向かって


手紙を音読した。


すると母は


「目障りだからあっち行って!消えて!」


という言葉を浴びせてきたのだ


そしてその辺にあった物を投げてきたのだ


愕然とした


どんなに叫んでも


誰も助けてくれない場所に隔離されてるような


どんなに声を張り上げても


誰にも届かない


そんな途方に暮れたような


言いようもない虚無感…


私は悲しくてたまらなかった


どんなにわかってほしくても


気持ちを理解してもらえなくて


話し合うこともできなくて


全てを拒絶されてしまったんだから


どうしたらいいのかわからない


どうしたらいいの


どうすればいいの


誰か助けて欲しい


誰か助けて


ーーー回想終了ーーー


言葉に表せないほどの憤りを感じる


人の話を聞こうとしないあの人の態度に。


人の話を聞かないばかりか


自分の思ってる事や考えを伝えようともしてくれない。


これを言った時相手はどう思うかどんな風に感じるのか、それを探ろうとするしぐさも見受けられない。


相手がどんな事を考えてるんだろうと気にかけるそぶりもない。


幾度となく思った


どうして私を産んだのだろう…


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