第32話

「ふーん。あ、もしかして、この前言ってた"すきなひと"がいるから、冴えないってこと? かわいそ〜」

「……どうでもいいだろ。てか、そっちこそ、どうなんだよ」

「まぁ、ひとりくらいは彼氏いたこともあったけど、高2の途中で別れて、そのあとは特に……」

「……」

「なる?」

「彼氏いたとか、ひかりのくせに、生意気じゃん」


生意気って言われてもねぇ。

わたしもなると同じなんだよ。



「……あのときあんたがわたしにキスしたのが悪いんだよ。ばーか」

「ん? なんか言った?」


わたしが放った渾身のストレートは、小声すぎて効果はなかったみたい。


「ううん、なんでもない。やっぱ、選手のこと教えて!」

「野球のルールは大丈夫? わかる?」

「失礼な! そこまでにわかじゃないですー」



そうして、わたしはなるがすきな球団の主力選手や、彼が注目している選手についてを試合が始まる5分前くらいまで聞いていた。あとはついでのように、毎週何曜日にいる売り子さんがかわいいという話も聞かされた。それに関しては少しムッとしたものの、素知らぬ顔してそうなんだと受け流す。

なるの思い通りには、わたしもそう簡単には動いてあげない。

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