第8話

公園の近くまで来ると、桜は雨に打たれて、ほとんどが花びらを地面に落としてしまっていた。


残念だけど、これはこれできれいかもしれない。

そんなことを思いながら、スマホを取り出しカメラに収めていると、はるちゃんが声をかけてきた。



「ひかりちゃん、兄がすぐ近くにいるって」

「わかった。行こう」


おそらく初対面のひとに会うのはとても緊張する。

胸の高まりを感じながら、わたしは彼女のあとを追った。



「あ、いた。なるー!」


真っ先にお兄さんの姿を見つけたらしいはるちゃんが呼びかける。



ん?

なる?


なんだか、聞き覚えのある名前だった。



「おう、おつかれー。あれ、そちらさんは……」

「紹介するね。バイト先のお友達の……」


初めは暗がりで顔がきちんと見えなかったけれど、近くにきてわかった。

お互い目を合わせて、ハッとする。



「ひかり……」

「なる……くん」




はるちゃんのお兄さんは、かつての天敵だった。

もう二度と蒸し返したくないほど、心に傷を負わされた、天敵。



心臓が、さらに強く音を立てて鳴りやまない。

はるちゃんが何かを言っているけれど、自分の鼓動がうるさくて、もう、なにも聞こえなかった。




桜が散り、もうすぐ新緑の新しい季節がやってくる。

わたしの今年の春の終わりは、最悪な結末を迎えた。

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