放課後の教室で
第10話
もうすぐ冬休み。受験シーズンまっただなか。藤ヶ谷くんはもともと頭がいいし、スポーツ特進だから、面接のみでいいらしい。でも、あたしの志望する高校では、自分の学力は乏しいため、今まで以上に勉強しなければならなかった。
あたしは個人的に先生方に勉強を教えていただけるように頼み、毎日の放課後、勉強をしていた。今日もいつも通り勉強を教えていただき、ちょうど終わったころに、教室に藤ヶ谷くんがやってくる。
「おつかれさま。どうだった?今日は、数学だっけ?」
「うん。やっぱり数学苦手だよ~。おもしろくないなあ」
「おもしろくないって思うから、だめなんだよ。あ、もしかしたら、ここ、おもしろいかも、とか、もしかしたら、ここ、得意なのかも、とか、プラスに考えていくことが大切なんじゃないかな」
彼の言葉に、なるほど、と思った。否定的に考えていくから、呑みこみが遅いのかもしれない(まあ、それだけじゃないとは思うけど)。彼の言い分も確かだから、あたしは参考にすることにした。
「それより、ごめんね。毎日毎日、待たせちゃって」
「いいよ。俺も、図書室で本読んだり、勉強したりしてるから」
図書室も静かだけど、放課後の教室も、静かだな、なんて言う。でも、校内に残っている生徒は、すみやかに帰りましょう、という放送や、別の教室から聴こえてくる声もあって、そんなに静かではない気がする。
「じゃあ、あたしたちも、帰ろうか」
「あ、ちょっと待って」
立ち上がろうとすると、腕を引っ張られ、あたしは彼の胸に顔が当たる。どうしたの、そう訊こうと顔を上げると、口を彼のそれで塞がれた。
「一回、してみたかったんだよね。だれもいない教室で、キス、するの」
口が離れてから、彼がそんなことを言う。先ほどのことがフラッシュバックして、あたしは顔が熱くなってくる。その光景を見ていた藤ヶ谷くんは、かわいいね、なんて言うから、あたしは、いつか、彼を見返してやろう、と思った(一生かかってもできないことかもしれないけど)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます