第9話
約束の秋祭りの日、待ち合わせの場所にいると、息を切らしながら彼はやってきた。
「ごめん、遅くなって…」
「大丈夫だよ、あたしも今来たところだから」
「じゃあ、行こうか」そう言って、手を差し伸べてくれる彼は、とても優しい。手を繋いで、歩きながら話す。
「ここから何分くらいだっけ?」
「うーん、10分もかからないと思うよ。如月、すきなもの、なに?」
「えっとね、りんごあめ」
わかった、じゃあ、着いたらりんごあめ探そうか、そう言ってくれる彼をいとおしい、なんて思ったんだ。
「りんごあめ、いちごあめ、あんずあめ、いっぱいあるよ」
秋祭りが行われている神社に着いて、りんごあめが売られている場所を探す。すると、藤ヶ谷くんが見つけてくれた。りんごあめにも、ほかにたくさんあるようす。
「本当だ!おいしそう~。本命はりんごあめだったけど、ほかの2つも捨てがたいなあ」
「じゃあ、ぜんぶ買ってあげるよ」
「え、でも、そんなに食べきれないし、それに、藤ヶ谷くんに悪いよ…」
いえいえ、俺、如月の彼氏だから、これで如月が喜んでくれたらうれしいよ、そんなことを言ってくれる彼。あたしは彼のお言葉に甘えることにして、ぜんぶ買ってもらった。あめたちが、きらきら、輝いて見える。食べるのがもったいないなあ、なんて思いながらも、いちばんちいさいいちごあめから口に入れる。おいしい? と訊いてくる彼に、あたしは笑顔でおいしいよ、と返した。
「如月、味見、ちょうだいよ」
彼はあたしの手を掴み、口のなかからあめを引っ張り出して、自分の口の中へと入れてしまう。ほんとだ、おいしい、なんてなんのためらいもなく、それをやってのけちゃうんだから、あたしは彼には及ばない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます