第四章:夏のヒーロー熱闘編

第32話:巨鳥と荒野とサイクロン

 「魔界にも青空はあったんだな?」


 人間の姿で俺は空を見上げた、地球にも劣らない綺麗な青空だ。

 もっと魔界って、暗い暗黒世界の印象だったよ。


 着ている服は、上下共に黄色い皮のウェスタン風ジャケットとパンツにブーツ。

 クーネさんがサンダーベヒモスの皮と骨で靴まで作ってくれた。

 何故ウエスタン風なのかと来たら、荒野に行くからだとドヤ顔をされた。


 「この西部劇に出て来そうな茶色い大地と岩山、良いでちゅね♪」

 「アネットさん、西部劇も好きだよね?」

 「アメリカは、いつか出かけて見たいでちゅ♪」

 「あの国、魔族に容赦ないからな」

 「お坊ちゃまが立派な魔王になって、国交が結べれば私がファーストレディーとしてついて行きまちゅ♪」

 「レベル上げとか勉強、頑張ります」


 お共の一人、赤い髪に狼耳を生やしたワーウルフメイドのアネットさん。

 俺の隣を歩く官女が尻尾を振り、笑顔で俺に夢を語る。

 俺には可愛いワンコ、敵には狂犬な彼女の夢を叶えたいと思った。


 しかしアネットさんもヴィクトリアさんも、荒野だと言うのにヴィクトリアンメイドの姿なのが素晴らしい。

 メイド好きにはありがたい。


 「本当にいい天気ですわね、楽しみですわ♪」

 「ヴィクトリアさん、荷物持ちありがとう」

 「いえいえ、私もパワーならメーアさんに負けておりませんので」

 「うん、ナイスバルク♪」

 「待った、私も今ワーウルフの筋肉を起しまちゅ!」

 「いや、それは戦闘の時でお願いします」


 俺達の掛け合いはいつでもどこでもぐだぐだである。


 もう一人のお共は、金髪縦ロールを風になびかせた優雅な顔つきの美少女。

 俺の後ろを歩いて背中を守てくれている、吸血鬼メイドのヴィクトリアさんだ。

 顔と髪型だけ見ればお嬢様だが、首から下は豊満なバストで筋肉質と侮れない。

 フランケンと吸血鬼のハーフでバリバリの武闘派である。


 モンスターメイドコマンドーズも仲間が増えて来たので、メンバーの組み合わせを色々試そうとこの三人パーティーで魔界へとやって来たのだ。


 「風よりも大地の属性のモンスターとかいそうだよね?」

 「ここは火の属性のも結構出る地域でちゅ、特にレッドバイソンのステーキは美味でちゅね♪」


 アネットさんが地図を広げて俺達に見せて告げる。

 魔界の肉料理は食ってみたいな、珍しいジビエとか。


 「グリーンロックの肉も、美味しいと聞きますわ♪」

 「鳥も牛も食ってみたいな、何か聞いただけで腹が減りそうだよ」

 「このアネット、肉料理には自信ありでちゅ♪」

 「むむ、負けてられませんわね?」

 「いや、張り合わないの! ともかく、目標は風属性のグリーンロック狩りだ!」


 料理上手なメイド二人を宥める、荒野で言い争ってる場合じゃない。

 三人で歩き出す、目指すはこの地域で一番目立つ岩山だ。


 「しかし、トレーラーもマシンカンケツバーも車検かあ」

 「ついでに言うと、セベック号はドッグ行きなのが面倒でちゅね?」


 我がチームの自慢のマシン達が整備中なので徒歩移動だ。


 「いっその事、バロックバットでアネットさんを抱えて飛ぶのが宜しいかと?」

 「そうだけど、もう少し歩いてみたいかな? 折角魔界に来たんだし、魔界の事も色々知りたいんだ」

 「お坊ちゃまだけなら、完全狼モードの私が背に乗せればハッピーでちゅがね?」

 「私、お坊ちゃまへの愛とウェイトはスーパーヘビー級ですので♪」

 「愛の重さなら私も負けてないでちゅ!」

 「うん、二人ともありがとう」


 大事にしてくれてありがとうだよ本当に、報いねば。


 「まあ、地球でも観光で自然を旅するツアーがありまちゅからね」

 「魔界のガイドもお任せ下いませ♪」

 「ああ、二人ともありがとう」


 枯れた草が回って行くなあ、西部劇っぽい。

 地面は乾いた大地と言う感じだが、今あⒽ暑くはないのがありがたい。

 周りに生えてる植物は、人面サボテン? 珍しい物だらけだ。

 アネットさんから聞いたレッドバイソンと言うのも気になる。


 呑気に旅をする俺達の前に、猛スピードで近づくのは骨だけの馬に轢かれた馬車。

 操縦しているのはゴーグルにツナギ姿の人物、馬車の荷台には巨大な卵。

 馬車の後ろからは怒りの雄叫びを上げ、羽ばたきで竜巻を起こす巨大な緑の鳥。


 「げげ、グリーンロックでちゅ!」

 「あの馬車の御者、卵を奪うとは度胸がありますわね?」

 「よし、卵を取り返して返してやろう」

 「「イエス、マイロード♪」」


 俺とヴィクトリアさんは、マカイザーのサンダーバロックバットフォーム。

 アネットさんはブラッディウルフに変身して馬車へと突っ込む!


 「おらおら! 卵泥棒はくたばれ~~っ!」

 「ひいい! 前から突然ワーウルフの野盗が~~っ!」

 「いまだ、キャッチ!」


 ブラッディウルフがショットガンを撃って馬車を攻撃。

 俺が落ちた卵をキャッチしてグリーンロックへと向かう。


 「お~~い、卵は取り返したぞ~~~!」

 「ピ~~~~~ッ♪」


 俺が卵を抱え上げて近づくと、グリーンロックは背中から触手を生やして卵を受け取り喜びの泣き声を上げた。

 そして、グリーンロックの思念が俺の脳に聞こえてきた。


 『蝙蝠の勇者よ我が子を取り返してくれた事、感謝する』

 「何、小さな命を見捨てられなかっただけだ」

 『ワーウルフの娘と共に、我が巣へと来てくれ』

 「わかった」


 俺は一度地上に降りてブラッディと合流する。


 「ヒャッハ~~♪ 卵泥棒は倒して来まちた♪」

 「ご苦労様、ブラッディ♪ まあ、そいつの素性はわからないがご苦労様」

 「いえいえ、ゴブリンの盗賊でちたから誰に退治されても仕方ない奴でちゅ♪」

 「まあ、そこは置いといて一緒にグリーンロックの巣へ行こう」


 俺はブラッディウルフをお姫様抱っこして飛び、岩山の上にあるグリーンロックの巣にやって来た。


 「いや、雛もでかいなこいつら?」

 「レベルそこそこありまちゅよ!」

 「流石は荒野の空の王者ですわね」


 小型重機くらいの大きさの雛鳥たちを見て俺は驚いた。


 『汝らに礼がしたい、我が風の力と羽を受け取ってくれ。 食われてはたまらん♪』

 「ああ、助けた命は空気がしないよ♪」


 グリーロックから、緑色の羽と緑色の宝珠が出て来たので受け取る。

 俺の脳内に荒野に渦巻く風の映像が浮かび、力が体内に流れて来た。


 「これは、羽がブーメランになった!」


 羽が変化し、鳥が翼を広げた形の緑色の大きなブーメランを手に入れた。

 弓矢とか使い方わからないし、ありがたい。


 『我が力、賊共で試すが良い♪』

 「うわ、地上にゴブリンの軍団が集ってる!」

 「大丈夫でちゅ、私らなら蹴散らせらrまちゅ♪」

 「魔界の治安を守る、お掃除ですわ♪」

 「うん、まあ向かって来るなら仕方ないよな? 魔界チェンジ!」


 俺は全身緑色のボディに黄金の貴族ジャケットを纏った新たな派生フォーム。

 マカイザー、サイクロンバロックバットへと変身した。


 「こっちは俺の体型に近いな? ヴィクトリアさんと逆か」

 「魔力を下さい、一の谷ばりに駆け下りますよ♪」

 「わかったブラッディ、頼むぜ♪」


 俺がブラッディの背中に触れると、彼女はバス程の大きさの狼となり俺を背に乗せて一気に崖を駆け下りた!


 「げげ~~~っ! ボス、魔獣に乗ったヤベえのが来ました!」

 「怯むな、ゴブリン魂を見せてやれ!」

 「ヒャッハ~~!」


 世紀末な風体の、モヒカン頭のゴブリン達が骨だけ馬に乗り騎兵突撃してきた。


 「良し、蹴散らすぜロックブーメラン!」


 俺が叫ぶとブーメランが自動で超高速回転しながら飛んで行き、ゴブリン達の首を刈り取り戻って来る。


 「て、てめえの血は何色だ~~~っ!」


 敵のボスが非難がましく叫ぶ。


 「いや、それは悪党側が言う台詞じゃねえだろ?」

 「うるせえ、悪にも人情があるんだよ!」

 「いや、悪党の人情など知るか!」


 悪党の事情など知らん、言葉でわかり合えぬ以上はと敵のボスであるトロール並みの大きさのゴブリンと決闘に入る。


 「ゴブリン覇王拳、ヘビーパンチ!」

 「何処の世紀末だ、サイクロンステップ!」


 非武装の一般人が喰らったらヤバそうなパンチを、俺は全身に風を纏いながら回転ドアのように回って避ける。


 「行くぜ、ロックブーメラン無風斬り!」

 「……何、切れてねえ? あば~~~!」


 音も風も置き去りにした速さで敵のボスを切り、残心を決める。

 同時に、ボスゴブリンはずばっと一刀両断されて命を散らしたのであった。

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