第26話:談合坂の変、競キョンシーを止めろ!

 「競キョンシー? 嫌な予感がするワードだな」

 「競馬ならぬ競キョンシー、レースになるんでちゅ?」

 「鼻の差ではなく腕の長さで判定でしょうか?」

 「コーナリングとかどうするのでしょうね?」

 「汚らわしいです、荼毘に付してやりましょう主!」

 「て言うか、クーネさんはどっからその情報を?」


 岩山での撮影から帰宅し、基地で動画編集などをしながら語り合う。


 「ウェブですよ、蜘蛛だけに♪」

 「うん、言うと思った。 家の回線とかじゃないよね?」

 「勿論ですよ、私ゃ綺麗好きなお掃除蜘蛛なんでシバキ倒したか悪党のスマホからちょちょいと♪」

 「対怪人警察に睨まれる事は止めて!」

 「大丈夫です、鬼桜事桜田刑事のおこぼれに預かってますから♪」

 「いや、それも別の意味で危険だから! 俺の精神衛生の為にも勘弁して!」


 クーネさん、何でもありだなこの人も本。

 まあ、聞いてしまった以上は仕方ない。


 「と言う事は、お仕事の依頼ですのね?」

 「ヴィクトリア、かしこ~~~い♪ 営業でお仕事取って来ました♪」

 「いや、危ない営業はするな! 対怪人警察からの仕事、黒くて安いから!」

 「黒い、安い、気分が悪いの三拍子でちゅあそこの仕事!」

 「鬼、悪魔、税務署。対怪人警察! ですよ~~!」


 対怪人警察もお役所の仕事だけど、勘弁して欲しいぜ。

 あの組織、ヒーロー泣かせで有名だからな。


 そして、次の土曜日。

 俺達はジムニーで移動し、敵の予想進路である中央道の談合坂のサービスエリアで待機していた。


 「つまり、ここ中央道をコースにキョンシーどもが横並びで爆走すると?」

 「ええ、そこでサンダープレデターで一網打尽ですよ~♪」


 ピンクのライダースジャケットとパンツ姿のクーネさんが小声で語る。

 俺も赤いパーカーと青のストレッチパンツ。

 リータさんは火の玉形態で俺の体内だ。


 「それはまた、道交法違反も甚だしいですわね?」


 ヴィクトリアさんは、上下ブルージーンズ。


 「全くでちゅね、道路は皆の物でちゅよ?」


 アネットさんは、赤い狩猟ベストに緑のミリタリーパンツ。


 「レディースの頭だったアネットさんが、それを言いますか~?」


 マミーラさんは、ピンクのフリル付きドレスと普通だけど場的に普通じゃねえ。


 「魔界には道交法は無かったし、地球でも無事故無違反でちゅ♪」

 「うん、ここまで無事に来れたしね」


 私服姿でラーメンを食いながら、俺達は会議を行う。

 店内の他の客も、私服姿の変身前のヒーロー達だ。

 道路は通行止めにして、サービスエリアはヒーロー達の貸し切り状態。

 邪仙同盟の悪ふざけを止めようと言う、対怪人警察の意気込みを感じた。

 警察の皆さんは、このふざけた博打に金を投じた奴らを狩るらしい。

 俺達ヒーローに下された指令は、見敵必殺だ。


 ヒーロー達も動き出す、俺達も行こう。


 「良し、腹ごしらえもしたし行くぜモンスターメイドコマンドーズ!」

 「「イエス、マイロード!」」


 変身してヒーローの皆さんと一緒に道路に並んだ俺達。


 土煙を上げて迫るは、色取り取りの衣装に身を包み頭だけは唯一キョンシーらしさがある清王朝の役人帽と言う無数のキョンシー娘達。

 ピョンピョン飛んでない、元気なゾンビみたいに走ってやがる!


 「いや、ゾンビパニックだよ中華要素ねえよ!」

 「お坊ちゃま、サンダープレデターで一網打尽にしましょう♪」

 「良し、決めるぜ!」


 俺とピンクアルケニーは合体し、フォームチェンジ。

 背中にデカい虎縞模様の蜘蛛を背負いパワーローダのような装甲を纏た姿。

 顔もマスクの上に蜘蛛の頭を模したバイザーが追加されてロボみたいになってる。


 「サンダープレデター、行くぜライトニングウェブ!」


 背中のアームが千手観音のように展開し巨大な網を張り放電。

 広大な電磁ネットを形成する。


 「おらあ! 網にかかったキョンシーはイフリートブラッディ様が火だ!」


 イフリートガントレットを装備したブラッディウルフが、敵に対して手足の燃え盛る爪を振るう。


 「交通ルールをお守りなさいな!」 

 「止まらない! 止まらないんだ~~っ!」


 ゴールデンヴァンパイアが斧を振るえば、キョンシー娘も服から出した中華剣で迎え撃つ。


 「あなた方が進むべきは、冥界への道です~~~~!」

 「もう二度と死にたくない! ゴールすれば完全に生き返れるんだ!」

 「連中はそんな約束は守りません! 来世へ向かいなさい、ラーブレイザー!」


 プリンセスマミーが、ラーの威光でキョンシー娘を焼き払う。

 マミーが焼き払ったキョンシーから、魂が天へと昇って行く。


 キョンシー娘達の叫びに、まだ経験が浅そうなヒーロー達が良心を刺激されて戸惑い弾き飛ばされる。


 「くそったれ! 人の魂を弄びやがって、魔族より外道だな邪仙共!」

 「私とマミーは、ヒーローさん達の救助に向かいますわ!」

 「二人とも頼んだ、俺達はキョンシー達を解放する!」

 「魔族でちゅが弔ってやるでちゅ、南無阿弥陀仏!」


 邪仙に骸を改造され、魂を捕らわれ賭けの駒にされているキョンシー娘達。

 キョンシーやゾンビなど、アンデッドとして復活した存在に蘇生魔法は通じない。

 蘇生魔法使えば、再び天に召されるだけだ。

 俺達にできる事は、彼女達の魂の檻となる骸を壊して天に送るしかなかった。


 俺達と同じ結論に至ったヒーロー達は、心を鬼にして倒していた。


 「俺達も行くぜ、ベヒモスランス!」

 『ランスを構えて砲身にして下さい』

 「わかった、砲撃するんで斜線上の先輩方は退避をお願いします!」


 こちらの言葉に先輩ヒーロー達はジャンプで退避。

 電磁ネットを解除した俺はランスを突き上げ、自分に雷を落とす。


 「行くぜ必殺、サンダーバスター!」


 受けた落雷を力に変えて、ランスの先から光線に変えてぶっ放す!

 轟雷一閃、消火ホースのようにランスを動かしビームで薙ぎ払う。


 「「ギャ~~~~~!」」


 キョンシー娘達が断末魔の叫びを上げ、魂が天へと昇って行く。

 心が痛いがやるしかなかった。


 「ヒャッハ~~~♪ 魂狩りだよ~~~♪」

 「「イエ~~~~イ♪」」


 突如西の空から不快な叫びが響き渡る。


 「何だ、ハーベストの魔女の群れだと!」

 「くそ、やらせるか!」

 「人の魂を辱めるな!」


 漁夫の利を狙って現れたのは、箒や掃除機など様々な物で飛行する魔女達。


 ある者はヒーロー達の対空攻撃を嘲笑い、空飛ぶ掃除機などで魂を吸い出す。

 他の魔女達は空に上がって来たヒーロー達と交戦する。


 「マジか、ハーベストの奴ら許さねえ!」

 『マルチロックサンダーで行きましょう!』

 「ああ、皆は空中戦に移行、俺はまず地上からぶっ放す!」

 「「イエス、マイロード!」」


 現場で悪さする悪の組織が一つだけなんてことはないよな。

 オカルト系のハーベストと邪仙同盟は、シェア争いしてるんだし。

 まずは仲間達に先行してもらい、俺はエネルギーを溜める。


 「チャージ完了、マルチロックサンダー!」


 今度はランスでエネルギーを吸い取り、背負ったアームから雷を発射!

 千手観音様には程遠いが、哀れな魂は一つでも天に返してみせる。


 「何! 地上から雷だって~~?」

 「あれは姿が変わってるが、忌まわしい魔族だよ!」

 「地獄へ帰りな悪魔ども!」


 一部の魔女共がこちらに狙いを付けて攻めてきた。


 「魔族にもなあ、ノブリスオブリージュがあるんだよ!」

 「あばっ!」


 雷を勢いよく放出して飛び、魔女の一人をランスを振るい地上に叩き落とす。

 電磁フィールドを球体状に展開して飛行し、空中戦に移行する。


 「流石は我らが、マイロード♪」

 「魔族は契約もしてない相手の魂なんかいらないでちゅ!」

 「私達の国では、魂を取るのは違法です~~~!」

 「俺達は、お前らみたいな外道じゃねえ!」


 いや、マジで一緒にされたくない。

 襲い来る魔女達を倒しながら魂を解放して行く。


 「セベック号召喚しました、皆さん乗って下さい!」


 マミーが空飛ぶ船を召喚したので同乗する。


 ヒーローの先輩方は、魔女達を地上へ引きずりおろして地上戦に入った。


 「よし、じゃあこの空を青く綺麗にするぜ♪ サンダーバスター!」


 セベック号の甲板に立ち、最後の仕上げと雷の砲撃を放つ。

 魔女達は断末魔の悲鳴を上げる間もなく消滅した。

 

 「ふう、魂が太陽に向かって行くみたいだな」

 「できれば生き返らせてあげたかったでちゅね」


 アネットさんが呟く。


 「いや、私らがした場合魔族に転生になっちゃうから」


 クーネさんあアネットさんを窘める。


 「ええ、それは彼女達の希望ではないでしょう」

 「ですです、魂は神様方にお任せいたしましょう♪」


 残りの魔女達を片付けた俺達。

 変身を解除して、セベック号の甲板上から解放された魂を見送ったのであった。

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