第22話:凍らせの魔女ゼラチーヌを倒せ!
祖母ちゃんからの試験で、イフリートガントレットを貰った俺。
新たなアイテムを手に入れられたのは嬉しい。
だが、俺がこいつを制御出来ているかはまた別問題だった。
「うん、このカボチャのサラダ美味いな♪」
「お坊ちゃま、籠手が出てまちゅ!」
「あ、やべえ! 戻れ」
夕飯時、飯の美味さに気が緩むといつの間にか籠手を装着していた。
風呂の時も、屋敷のデカい檜風呂で足を伸ばしたらレガースが。
裸レガースって、怪しいだろ?
「イフリート、ボディソープ付けて磨かれたくなかったらインしようか♪」
レガースは大人しく解除された、これはきちんと対話するしかないな。
「
「あれ? 俺は寝てたはず、誰だあんた!」
「イフリートです、主!」
「いや、籠手じゃねえじゃん!」
ベッドで寝てたはずの俺は、周りがオレンジの炎が燃え盛る世界にいた。
俺と向き合うのはオレンジ色の人形の炎、萌えない。
「もうちょっと、頑張って人型になれませんか?」
「主の魔力をいただければ可能です」
「あれか、エナジーか?」
「エナジー交換です、武具の契約とは別口です」
「中の人とも契約が必要か、仕方ないな」
人型の炎に手を差し出すと握られる。
吸われると同時に、全身が湯船につかる感じが来る。
エナジーの交換が終わるとイフリートも変化していた。
「え、人になるとそんな感じなの?」
「はい、主の魔力による物です」
「パードゥン?」
「リアリーでございます、主」
俺の目の前には、黒髪で褐色肌の美人なヴィクトリアンメイドがいた。
「え~と、籠手とレガーズ付きブーツの武具セットとメイドと炎人間の形態を使い分けられると言う事かな?」
「他にもこのように、火の玉にもなれます」
「マジか! 火の玉の方が無難だったような?」
「メイド化は主の願望が原因と責任かと具申いたします」
「ああ、うん。 そうだね、俺の業だね」
メイド好きと言う俺の業が悪いのか!
何か、対戦相手を女性化させる格闘ゲームのキャラクターみたいだな俺。
「じゃあ改めて、リータさんで良いかな?」
「シンプルでかつ、魂に染み込む素敵な名前をありがとうございます♪」
「ああ、喜んでもらえて嬉しいよ」
籠手が、正確には籠手の中の人がモンスターメイドになった。
うん、やはり面倒臭い事になりそうだ。
「ちょ! お坊ちゃま、誰でちゅかそのメイドは!」
「え、アネットさん? 何で俺の夢の中に?」
「クーネもいますよ、私らは一心同体です!」
「夢の中でも一緒ですわ!」
「ヴィクトリアさん?」
「マミーラもおりますよ~~~!」
「おう、皆来た!」
俺の夢の中のはずが、起きている時と同じように全員集合となった。
「改めまして皆様、イフリートガントレットことリータと申します♪」
リータさんが籠手に変化して浮いて見せる。
「「籠手がメイドになった~~~~っ!」」
アネットさん達全員が驚いた。
俺も驚いたよ。
五人目のメイド、リータさんが爆誕したのであった。
意志どころかメイドにもなる武具、カオス過ぎだよ!
「ぶはっ! 夢だよな? 籠手がメイドになるなんて」
「夢ではございません、リータはこちらにおります」
「ぎゃ~~~っ! 俺の脳内からメイドが出た~~~っ!」
ベッドの横で立ていたリータさんに驚き絶叫する。
俺の部屋の扉が開き、駆け付けて来たメイド達も絶叫した。
翌朝の食卓、リータさんも交えて改めて顔合わせとなった。
「恐るべきは色欲王の血統でちゅね?」
「いや、俺だって想定外だよ!」
「私も想定外でございました」
リータさんも丼飯で山盛りのごはんを食べながら呟く。
「いや、魔王様達並に食べるねリータ?」
クーネさんが味噌汁を飲む手を止めて驚く。
「何と言うか、お坊ちゃまの力はカオスですわね」
ヴィクトリアさんは呆れる。
「他の武具もメイドに変化しそうです~~」
「いや、流石にそう言う事はもうないはずだよ?」
マミーラさんの言葉に俺は異を唱える、こんな事は何度もあってはたまらない。
「まあ、面倒見てやるでちゅよ同じ火属性仲間でちゅからね♪」
「アネットさん、三倍目のお替りをお願いいたします山盛りで」
「いや、少しは遠慮しろでちゅ!」
アネットさんが吠えてオチが着いた。
「リータ、学校での護衛は任せるでちゅ」
「はい、アネットさん」
学校に行く前、屋敷の玄関で俺とリータさんを見送るメイド達。
「あの学校、私達は決壊で入れないから頼むよ?」
「悔しいですが、生霊や眷属達も入り込めなくされてしまいましたからね」
「私達もお坊ちゃまと青春したいです~~!」
悔しがるクーネさん達に頭を下げたリータさんが火の玉となり、俺の体内に入る。
リータさんは人型になり分離できるようになったとはいえ、基本的には変身ベルトのように俺と一体化しているので一緒に学校へと行く事になる。
ゲームで言うなら、パーティーの仲間と装備品との違いだ。
リータさんの本体はあくまでも籠手なのであった。
外に出ると、六月も半ばを過ぎたと言うのに外は雪景色であった。
「何じゃこりゃ~~!」
思わず叫ぶ、色々とおかしな事には慣れてきたはずだがそんな事はなかった。
『主、これは魔法の雪です。 そして、邪悪な魔力を感じます』
「ああ、この方向は奥多摩湖かよ! 魔界チェンジ!」
俺は変身すると、両の手足に炎を模した真紅の籠手と鉄靴付きの足鎧を装着した新たなマカイザーの姿になった。
「イフリートマカイザー誕生、飛んで行くぜ!」
『かしこまりました』
足裏から炎を噴射し、ロケットの如く飛び立つ。
湖面が凍結し周囲が白く冬景色になった奥多摩湖上空。
巨大な銀色の泡だて器に跨り浮遊している水色の魔女服の少女がいた。
「止めろ、ハーベストの魔女!」
「出たわね、お邪魔な悪魔め!」
「邪魔なのは、お前らだよ!」
俺と向き合った魔女は、服も帽子も水色のゼリーっぽかった。
こいつら魔女共には、悪党の中でも特に怒りが燃える。
「ふん! この凍らせの魔女、ゼラチーヌ様の奥多摩湖の丸ごとゼリー作りは邪魔させないんだからね! 出でよ、ゼリーゴーレム!」
「そんなはた迷惑な事、させてたまるか!」
ふざけた理由で悪事を働く魔女に、俺は激しく怒りを燃やす。
虚空に現れた巨大な人型のゼリーがこちらに襲い掛かって来る。
「そんなもんにやられるかよ!」
炎を全身に纏った俺から出た熱波が、ゴーレムを瞬時に蒸発させる。
「嘘! 私のゴーレムが一瞬で消えた!」
「お菓子作りなら家でやれ!」
「修行の課題なんだから邪魔しないでよ!」
魔女が無数の霜柱を生みだし飛ばして来る、舐めるな!
こちらも相手に右拳を突き出し、バスケットボール大の火炎弾の群れを発射する。
互いの技がぶつかり合い、水蒸気の霧ができる。
「悪いがこっちはお前の魔力と体温が見えてるんだよ、逃がさねえ!」
アネットさんの力でもできたが、今の俺の目はサーモグラフィー状態だ。
霧に紛れようとも敵を逃したりはしない。
「喰らいなさい、アイシクルスプ~~~ン!」
「バーニングジャブ!」
ゼラチーヌと名乗る魔女が、泡だて器に乗りながら巨大なスプーンに冷気を纏わせて槍の代わりにして空中で騎兵突撃を仕掛けていた。
だがこっちは、左のジャブ一発で相手を攻撃ごと弾き飛ばす。
「は、魔力だけでっかちだな! こいつを喰らえ、ブレイジングナックル!」
「嘘っ! こっちの障壁も防御も砕かれた!」
拳を燃やし、こちらも空中突進からのストレートパンチ。
鎧袖一触の一撃は、相手の盾の代わりの巨大なスプーン諸共に敵を打ち砕き爆散させた。
『敵の消失を確認しました、こちらの勝利です』
「ああ、それじゃあ周囲の雪を溶かすか」
敵を倒した事で落ち着いた俺は加減をしながら熱波を放出し、奥多摩周辺を元の六月の景色へと戻したのであった。
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