第13話:メイドと親友

 「今日は私が同伴ですわ~♪」

 「ヴィクトリアさん、ご機嫌すぎだよ?」

 「愛しい殿方といて機嫌がよくならぬはずはございませんもの♪」

 「嬉しいが恥ずかしいな、そこまで思ってもらえると」


 今日はヴィクトリアさんと行動する日。

 ローテーションはジャンケンらしい。


 「私達、王子殿下の護衛の兵でもありますので」

 「俺が魔界の王子か、いまだに実感がわかないよ」

 「じっくり、私達色にお育ていたしますわ♪」

 「お手柔らかに頼むぜ」


 祖父の家である赤星家に引っ越して来てから一月ほど。

 彼女達モンスターメイドから、魔界の王子として武術や礼法などを習う日々。

 出かける時も護衛として誰かが付いて来る、まあ誘拐されたから仕方ないが。

俺が地球で生まれ育った理由が、魔力の加圧トレーニングみたいな物だと聞かされた時はずっこけたけど。


 「あの事件は本当に一大事でしたわ、我が国の王子が誘拐だなんて!」

 「本当にあの時から王子の身分には助けられてるよ」


 魔界の王子でなければ、あの時に助かることもなく死んでいたかもなな俺。

 王子であり、モンスター娘に愛される異能がなければと思うと背筋が冷える。

 個人的な感情からも、ハーベストの魔女共は絶対に許さん。


 夕飯時の商店街を、ヴィクトリアさんと二人で腕を組んで歩く。

 周り人達の奇異の目の視線には、もう慣れた。


 「よう、勇太じゃねえか♪ ……マジでお坊ちゃまだな?」


 近くの肉屋から買い物袋を抱えて出て来たのは私服姿のたけるだった。

 赤いスタジアムジャンパーにジーンズと戦隊レッドっぽい私服だ。


 「あら、こちらの赤髪のヤンチャ系の方はどちら様ですの勇太様?」

 「隣の席の親友、赤羽武あかば・ねたける。 戦隊レッドだ」

 「どちらかと言えば、仮面のファイターっぽいですわね?」

 「ヤンチャとか良く言われるし否定できねえ、バイクは乗れないけどな」


 俺達三人は肉屋に入り、コロッケを買って食べながら話す。

 戦隊メンバーがこの近所に住んでいるらしく、そちらに行く途中だったらしい。


 「まあいつか俺の戦隊を紹介するぜ、模擬戦とかやろう♪」

 「ああ、その時はよろしく♪」

 「モンスターメイドコマンドーズの実力、お見せいたしますわ♪」

 「ヴィクトリアさん、牙見せないで!」

 「ご心配なく、この商店街では私達は馴染みですわ」


 武を見送りつつ、ヴィクトリアさんと軽く日常のあれこれを語る俺達。

 こちらも肉屋を出て、買い物を済ませて帰宅する。


 「ほうほう、フェザーレッドねえ?」


 クーネさんが興味深そうに呟く。


 「まあ、お坊ちゃまの敵にならなければ良しでちゅね」

 「いや、友達だからね武は?」

 「レディースしてた経験からでちゅが、友が敵に回ると厄介でちゅよ?」

 

 アネットさんは厳しい意見だった。


 「戦隊というと連携が面倒ですね?」

 「マミーラさん、武達のチームと戦う事を考えてない?」

 「勝つ為の事を考えてます、ファラオの為に♪」


 地下の基地で皆にコロッケを配り食べながら語る。

 模擬戦とかで勝負は良いけれど、親友とガチバトルはしたくないな。

 ヒーロー同士で争うなんて愚かすぎるよ。

 とは言いつつも歴史上、ヒーロー同士って結構争ってたな。


 「光翼戦隊フェザーファイブですか、何か正統派と言う感じですね?」

 「センターに立ってる赤いのが武か?」


 スマホで動画見ながら呟く、同業者の仕事を見るのも仕事だ。


 「私達も、PV稼げる動画とか撮りたいですわね」

 「なら、私達のスパーリング動画でも撮影する?」


 ヴィクトリアさんの呟きに、クーネさんが背中の蜘蛛腕でシャドーボクシングをして答える。

 家のメイド達のバトル、モンスターマニアとかには受けそうだが何か方向性が違う。


 「メイドらしく、魔界のお料理動画とか上げましょうか♪」

 「いや、それは規制されそうだし動画の件はひとまず置いておこう」


 俺が動画サイトからチャンネル消されかねない話を制すると同時に、屋敷内にアラートが鳴り響く。


 「報告します、桧原村方面でクラッカーの怪人が出現しました!」


 何処からかミイラ人間が現れて、姿勢を正して叫んだ。


 「え、ご苦労様です?」

 「光栄です、ファラオ♪」

 「ご苦労です、五番兵。 今日は早上がりを許します♪」

 「マミーラさんの知り合い?」

 「私に支えるミイラ兵です、忠実ですよ♪」


 五番兵と呼ばれたミイラ人間は喜んで去って行く、何と言うかまだ知らない事が多すぎるな。


 「魔界で雇ってるいわゆる、私達の組織の戦闘員とかスタッフさんですよ♪」

 「そうなんだ、今度顔合わせとか慰労会とかしないとな」


 クーネさんの言葉に頷くと、車両に乗り込む。

 カタパルトで飛び出し、マシンごと現場付近へ一気に飛び出る。


 「ヒャッハ~~~♪ ノコギリギリー様が地域の産業を破壊してやるぜ~♪」

 「そうはさせん!」


 俺は車内でマカイザーに変身し、敵の前に飛び出した。


 「魔界勇者マカイザー、参上!」

 「貴様か、我々のダムでの破壊作戦をぶち壊したヒーローは!」

 「その通り、お前の野望もぶち壊してやるよ!」


 手足だけでなく、頭と胴体にもノコギリを生やした銀色の人型ロボットっぽい怪人と向き合う。

 こいつらクラッカーの怪人は、あちこちで小さな事件を起こしては世界の物理的な崩壊を企む厄介な悪党だ。


 「馬鹿め、一人だと思ったか? 出でよ、戦闘員共!」

 「「クラ~~~~ッ!」」


 怪人の周囲にチェーンソーで武装した黒ずくめの戦闘員達が現れる。


 「こちらも一人ではございませんわ♪」

 「戦闘員は我らにお任せあれ♪」

 「ノコギリ持ってイキッった馬鹿にはヤキ入れでちゅ♪」

 「土地を荒らすものにはミイラの呪いあれ~~~♪」


 こちらも頼れる仲間、魔界メイド達がやって来た。


 戦闘員は魔界メイド達に任せ、俺は怪人とタイマンに持ち込む。

 夜の森を舞台にした戦闘が始まる。


 「げげっ! メイドキャップ付けた怪人共がヒーローの味方だと!」

 「俺の愛する仲間達を怪人呼ばわりするんじゃねえ!」


 家のメイド達を侮辱したノコギリ怪人に俺はキレて殴り掛かる。


 「ギリ~! こいつ、切れて無いギリ~~ッ!」

 「俺の鎧は、そんなノコギリで切られるほどヤワじゃねえ! マカイザーパンチ!」


 相手のノコギリ攻撃を受けて弾き、怒りと呪いの紫炎が灯る拳で殴る。

 怪人は咄嗟に両腕でガードを入れる、だが俺の拳は奴の腕のノコギリを破壊した。

 頭部にヒットなら一発撃破だが、悪運の強い奴め。


 「ぐお、俺のノコギリが! く、体が重いだと!」

 「ミイラの呪いだ。 止めの一撃行くぜ、マカイザーニースティング!」


 俺は蹴り上げと同時に、右膝から蜘蛛の爪を生やして怪人のボディを貫く。


 「ぐはっ! クラッカー、万歳っ!」


 怪人は爆散する、こっちも至近距離での爆発を受けたが装甲のおかげで無傷だ。


 「おおう♪ 素敵な蜘蛛の爪でしたよマイロード♪」

 「呪いの炎のパンチも素敵でした♪」

 「こちらも戦闘員は片付けまちた♪」

 「周囲の環境に被害ゼロですわ♪」

 「そっちもお疲れ様、じゃあ対怪人警察に連絡して報酬もらわないとな♪」


 戦いを終えて、後始末してから報酬の相談も兼ねて呼んだ警察を待つ俺達。

 やって来た対怪人警察の捜査官と鑑識に挨拶をして、検分をしてもらう。

 小一時間で終わり、俺達は無事に事件解決が認められた。

報酬は、五万円程でまあまあだった。


 車両に乗り込み、基地へと帰還した俺達。

 変身を解いて皆で事件解決を祝う。


 「お疲れ様、ありがとう♪」

 「どういたしまして、安価でしたが報酬の振り込みが楽しみですね♪」


 クーネさんの目がお金になっていた。


 「VRゲームを買うのには足り無いけれど嬉しいでちゅ♪」

 「うん、まさかの臨時収入だね♪」


 アネットさんの言葉に頷く。


 「周囲の被害はなし、税金の天引きだけで済みそうですわね♪」

 「うん、人命に被害が出る前で本当に良かった」


 敵の狙いが何であれ、放置すれば人の命が危うくなるのは必然だ。

 人にも街にも被害が出ずに済んで良かった。


 「それでは、夕食にいたしましょう♪」

 「うん、マミーラさんは宜しくお願いします♪」


 今日の料理当番であるマミーラさんが屋敷の台所へ調理をしに向かう。


 夕食のカレーを皆で食べつつ事件を振り返る。


 「お坊ちゃま、段々と魔族の力に馴れて来ましたね♪」

 「いや~、あの時の蜘蛛の爪の膝蹴りとか素敵でした♪」

 「次は私の狼の力で、敵に止め刺して欲しいでちゅね♪」

 「私の吸血鬼の力もお使い下さいませ♪」

 「うん、皆と力を合わせて戦って行こう♪」


 共に戦場に出て力を貸してくれるメイド達に俺は感謝した。

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