第9話:吸血鬼とクラッカー
「御苑ではお疲れ様でしたね」
「中々、テレビみたいに上手くいかないよ」
「蜘蛛は嫌われますね」
「ミイラも怖がられますし」
「狼はありきたりとか言われまちゅねえ」
日曜の朝、ヒーロー番組を見ながらの朝食。
自分達がヒーロー側になるとよくできた再現ドラマに見える。
有名なヒーローはゲストで出たりとか羨ましい。
「俺らも日曜の朝のお茶の間で愛される存在になりたいぜ」
「私らどちらかと言えば、深夜枠とかネット配信の枠ですからね?」
「アニメ化が良いでちゅね、実写ドラマより」
「実写ですと、グロテスクな着ぐるみにされそうですわねえ」
「グッズ化もしたいです」
「人気者への道は遠いぜ」
テレビはテレビと、無理やり割り切って和食主体の朝食を終える。
怪奇路線のヒーローチームである俺達も、いつかは日の当たる場所へ行きたい。
皆で後片付けをしたら、屋敷の地下基地へ行く。
「さて、本日は私ヴィクトリアにお付き合いいただきます♪」
「おっす、宜しくお願いします」
ヴィクトリアさんが告げる。
改めて見たが金髪縦ロールの美少女だが、身長が高く胸も筋肉も大きい。
俺としては良い、嗜好に刺さる。
逞しいボディとメイド姿のマリア―ジだ。
「何でしょう、お坊ちゃまからヴィクトリアさんへの好感度が上がってます」
マミーラさんがジト目をする。
「私だって、負けてまちぇんよ? 満月になればモリモリに!」
アネットさんも筋肉アピールをする。
「海へドライブに行きましょう、芸術的な蜘蛛の筋肉をお魅せいたします」
クーネさんも目が据わっていた。
「生憎ですが、本日は私がメインですので♪」
ヴィクトリアさんが勝ち誇る。
まあ、決まり事は守らないとね。
とは言う物の、俺にプランは無かった。
「ではお坊ちゃま、奥多摩湖へ参りましょう♪」
「え、何ゆえ奥多摩湖?」
「自然に触れて、リフレッシュいたしましょう♪」
「うん、のんびりするのも良いな」
「お弁当は、手塩にかけてご用意しておきました」
「あ、もう予定は決まってたんだ?」
こうして、突如奥多摩湖へ向かう事になった俺達。
ヴィクトリアさんが用意したアウトドア用の衣装一式に着替える。
バスでは目立ちはしたが、周りが引いてくれたので無事に座れた。
「縦ロールが乱れないって凄いな」
「私の髪型は、形状記憶ですの♪」
「金属じゃないんだから!」
「私、フランケン族とのハーフなので♪」
「魔界のフランケンって、ロボなの?」
ボケか真かわからん会話をしつつ川原に出る。
フランケンとのハーフなら、ガタイの良さは納得だ。
変身後もロボっぽかったしな。
「上下デニムって、ヒーローっぽいね?」
「アウトドアですので、フランク過ぎたでしょうか?」
「そうだね、ドレス姿とかはまた別の機会で」
「ええ、ではいずれダンスのレッスンを♪」
「藪蛇だったか!」
「好き嫌いはいけませんわ、社交ダンスも戦闘訓練ですのよ?」
ヴィクトリアさんの顔が可愛くむくれるが、吸血鬼らしく牙が見えた。
しかし、良い天気で周囲は平和だが何か起こりそうだな。
平和の裏で悪の陰謀が蠢いているのは事実だから。
「如何なされましたか?」
「いや、こんな所でも事件が起きるんではと」
「治にあっても乱を忘れずは、必要ですわ」
「ヴィクトリアさん、やはり良い所の出なんだよね?」
「アネットさん達もですわ、仮にも王子殿下のお付きですし」
「ご令嬢が、レディースってのも凄いよな」
「
ヴィクトリアさんと川原にシートを敷き、弁当を食いながら語り合う。
四人共、魔界のお嬢様学校の出らしい。
ちょっと理解できないが、モンスター娘達の女子校は気になる。
魔界に行くのが楽しみになって来た。
のんびりピクニックを楽しむ俺達。
食事を終えたので、運動がてらにダムでも見に行くかとなった。
「うん、何かロボの基地みたいだな」
「確かに、水門から出撃しそうですわねえ」
川上へと進んだ俺達。
巨大な白い水門や要塞と見紛うような、厳つい外観のダムを見つめた。
「展望塔に博物館と、見どころが多いな」
「博物館にはチョスイダー様と言うヒーローの方が常駐されているとか?」
「防水戦士チョスイダーか、気になるな」
「堤防戦隊ダムレンジャー様と言うのもございますのね?」
「まあ、公共施設にヒーロー配備は義務だからな学校のOBかよ!」
石を投げればヒーローに当たる大ヒーロー時代。
スマホを使いダムについて検索すれば、所属ヒーローのデータも出てきた。
他のサイトだと、博物館のカレーは名物だとかあった。
「で、どうする? 行って見る?」
「業界人としては、同業者の仕事は見ておきませんとね」
俺達は気持ちをデートからヒーローの仕事モードに切り替える。
同業他社の仕事はリサーチせねば、他山の石だ。
「博物館のカレーもいただきましょうね♪」
「そっちもリサーチしておこう、カレーは別腹だ♪」
訂正、まだデート気分だった。
遊歩道を進み博物館の入り口前に着く。
ダムレンジャーやチョスイダーのファンらしき来場者でにぎわっていた。
広場にはミニステージがあり、何やらイベントが行われるようだった。
「皆さん、こんにちわ~~♪ マジカルたまりんで~~~っす♪」
「「こんにちわ~~~♪」」
白地に青の水玉模様のドレスを着た、小柄で可愛いお姉さんが登場する。
子供も大きなお兄さんも、たまりんさんに夢中だ。
ヴィクトリアさんは、俺がたまりんさんに対して無反応な事に微笑む。
「どうしたのさ?」
「おぼっちゃまが人間の女性に取られない事が確信できて嬉しいのです♪」
「いや、何か人間の異性に萌えなくて」
「良い事です♪ あなたは私達魔族を愛でていただければ良いのです♪」
「人間も大事にしないと駄目だよね?」
「恋愛は私達だけで♪」
可愛く嫉妬されてしまった、そんなヴィクトリアさんが愛しい。
だが、近くに立てられたスピーカーから警報が鳴り響く。
『貯水池に怪人が出現しました、ご来場の皆様は館内へ避難して下さい』
アナウンスに従い、来場者がぞろぞろと艦内に入って行く。
「あれ? あなた達は避難しないの?」
「あ、俺達ヒーローっす」
「ご協力させていただきますわ」
たまりんさんに免許を見せる。
「良かった、一緒に戦いましょう♪ チョスイダー達が戻るまで時間稼ぎよ♪」
「おっす、魔界チェンジ!」
「魔界チェンジですわ♪」
「きゃ~~~~っ! ま、魔族が何で~~~~っ!」
たまりんさんは俺達を見て、魔族アナフィキラシーショックで気絶した。
「ちょ、マジか!」
「失礼すぎますわ! 放置して向かいましょう!」
「急ぐならフォームチェンジだ、合体しよう!」
「イエス、マイロード♪」
変身した俺達は、スピード解決を目論みフォームチェンジを行う。
ゴールデンヴァンパイアに背後から抱きしめられ一つになる。
マカイザーのスーツの上から、青い貴族が宮廷で着るジャケット風の追加装甲を纏い背中に金色の蝙蝠の翼を生やした姿に変わる。
『これが私の力、バロックバットフォームですわ♪』
「うん、行ける気がする♪」
ジェットの如く飛び立ち現場へと急ぐと、貯水池の上に怪人を発見した。
銀色のロボットの玩具のような怪人もこちらを見上げて驚く。
「げげ、貴様は何者だ!」
「魔界勇者マカイザー、バロックバットフォームだ!」
「知らぬわ、クラッカーの改造鉄人ヘビーガン様が殺してやる!」
ヘビーガンと名乗る怪人が両腕をガトリング砲に変えて対空攻撃を仕掛ける。
「マカイザーホール!」
俺は頭に浮かんだ言葉を叫び、前方に小規模のブラックホールを生みだし弾丸だけを吸い込み消滅させる。
「貯水池は汚せない、速攻で終わらせる!」
「何? 貴様俺を舐めているのか! ぐわ~~っ!」
「ちょっと異次元に行こうか」
急降下の突撃で、怪人をかっさらい急上昇。
俺は再度マカイザーホールで虚空に穴を開け、怪人共々穴に飛び込む。
出た先は魔界、月が大地を照らす荒野へ怪人を投げ落とす。
「ここはどこだ!」
「魔界だよ、初めて来たが力が漲る~~っ!」
初めて来た魔界。
魔界の月は、俺を歓迎するように光を当てて力をくれた。
『ここなら遠慮なく力を振るえますわ♪』
「フランケンパワー! ギガナックルクラッシュ!」
「畜生、殺されてたまるかヘビ―マグナム!」
俺は両腕と拳を肥大化させ、隕石の如く怪人へと拳を落としに行く。
怪人も胴体から砲塔を出して砲撃して来た。
だが、こちらの拳が纏うエネルギーで砲弾は消滅し怪人は潰れて爆散した。
「よし、帰ろう」
『ええ、一件落着ですわ♪』
怪人の撃破を確認した俺達は、再度拳で次元を割って奥多摩湖へと帰還した。
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