第8話:土曜日は蜘蛛フォーム
「お坊ちゃま、今日は私と一日デートしましょう♪」
「俺、学校の課題やらレポートがあるんだが?」
「レポートなら、ヴィクトリアが代筆してくれるそうですよ♪」
「うん、絡め取られてるな俺」
「お召し物は仕立てておきました、こちらは王族らしい一着ですよ~♪」
「いや、何時の間に? まあ、ありがたく着させていただきます」
「ええ、私めの吐き出した糸で丹精込めて編みました♪」
「いや、素材も出来栄えも凄いなオイ!」
手渡されたのは上下ピンクのジャケットとボトムス。
宮廷とかで貴族が着てるのだよ、バロック調だよ。
クーネさんの四つの目がギラリと光る。
これは着るのを断れない流れだ。
その場で自分で着替える、でないと強制的に着替えさせられかねない。
着心地は悪くない、色と素材は目をつぶろう。
「素敵ですね、シャツは私お手製のこちらで♪」
「それも何か、古い少女漫画の貴族のシャツだよね?」
「シャカシャカ~♪」
クーネさんが背中から蜘蛛の腕を出し、超高速の動きで俺を着替えさせる。
あっという間に、ピンクの貴族衣装を纏った姿に変わった。
「いや、出かけるのは魔界じゃないよね? 現代日本人風のでお願いします」
「フフフ、かしこまりました~~♪」
再びクーネさんが蜘蛛腕を操り、俺を着替えさせる。
今度は、上下黒のカジュアルジャケットとスラックスだった。
シャツも見た目は普通の白シャツ、だが漂う魔力からしてお手製か?
支度を済ませて屋敷を出る。
「で、クーネさんは何故に男装?」
「お坊ちゃまが気楽に過ごせるように、ついでに事件があった時の為に」
「ありがとう。 いや、事件がついでかい!」
「ちゃんと晒しで胸も抑えてますよ、キリ!」
「男役でも演じてたの?」
「女子校の王子様って奴です~♪」
ピンクのライダースジャケットに、黒のバイカーパンツで男装したクーネさん。
彼女と二人でジムニーで出かける。
「ど~ですかこの安全運転ぷり、アネットよりドラテクは上ですよ?」
「いや、蜘蛛の腕でハンドルとかウィンカーとか操作してる!」
「両手は銃撃つのに使うんで空けてます♪」
「日本も銃社会化して十年経つけど、法律守って撃とうね?」
「大丈夫ですって、私はこう見えて射撃も白兵戦も得意なんですから♪」
ぐだぐだな会話をしながらの、ドライブデート。
クーネさんのユーモアには、まだ振り回されてるな。
「それで、ただ新宿に遊びに来たってわけじゃないよね?」
「そんな警戒しないで、遊び八割ですよ~♪」
「遊びの中に戦いの割合が四割かな?」
「理解度が高いお坊ちゃま、素敵です♪」
コインパーキングに駐車して出て、周囲に魔力センサーを張り巡らせながら歩く。
『ヒーローたる者、探偵術は大事ですよ』
『こう言う都会は、悪党もうろつくからって?』
『そそ、私らの敵は悪党全般ですから』
カフェのテラス席で、カップルメニューのドリンクをすすりながら思念通話する。
都市部での索敵や調査技術を、カップルに擬態しつつクーネさんから学ぶ。
だが、人間観察をしてると冷たい視線と目が合った。
「ほう、君達がこちらまで出て来るとはな?」
「探偵術のトレーニングですよ」
「私ら真っ当なカップルですよ、桜田さん?」
「そう言う事にしておこう、失礼」
偶然出会ったCUVの桜田刑事と軽く話す。
新宿が対怪人警察のおひざ元だからとはいえ、出会う確率が高いな?
「お坊ちゃま、河岸を変えましょう縁起悪い」
「まあ、刑事と話してるところ見られたらいずらいよな」
俺達も代金を支払い、移動する。
車に戻り四谷方面へ移動する途中、新宿御苑上空に異次元の穴が開いた。
「お坊ちゃま、出番ですよ♪」
「良し、ヒーロー二名で突撃だ!」
駐車場に車を止め、ダッシュで入園料を払い現場へ急行。
灰色のクラゲ人間が落ちて来るのと同時に変身。
「「魔界チェンジ!」」
「魔界勇者、マカイザー!」
「魔界メイド、ピンクアルケニー♪」
素早く変身して名乗る。
「むむ、地球のヒーローか? 煩わし奴らめ、我が狩りの邪魔はさせぬ!」
「やかましいぞアブダクター、お前の好きはさせねえ!」
「被害が出る前に仕留めます!」
俺とアルケニーのダブル蜘蛛糸攻撃で、クラゲ野郎をふん縛る!
「縛られた程度で私がどうなるとでも? これでも喰らえ!」
「電撃、悪いが耐えられる!」
「私ら、電気に強いんですよ♪」
蜘蛛糸を伝って来た、敵の電撃攻撃に耐える俺達。
これまで戦って来た魔女達ではなく、宇宙の悪党アブダクターの相手は初だが負けてはいられない。
「皆さ~~ん、私達ヒーローが怪人と戦ってますから逃げて~!」
「御苑も皆さんも平和も俺達が守ります、スマホ向けてないでとっとと逃げて!」
敵を抑えつつ、射程内の市民達に避難を促す。
これはイベントじゃなくてガチの奴だから逃げてくれ!
ヒーローの指示に従わない市民が悪いが、彼らが怪我するとこっちが悪くなる。
「アルケニー、眷属生成で結界を張るぞ!」
「イエス、マイロード!」
俺はベルトのバックルから、アルケニーは口から無数の蜘蛛の眷属を吐いて生みだし周囲にばらまく。
敵よりも、俺達が出した蜘蛛の眷属達を市民達が気味悪がって逃げ出す。
眷属達は、俺と怪人とアルケニーをドーム状に覆い閉じ込めた。
「凄い癪に障るが、これでじっくり戦えるぜ!」
「蜘蛛って可愛いじゃないですか~~!」
「おのれ、ヒーロー共にしてやられたか!」
アブダクターのクラゲ野郎が悔しがる、ざまあみろ。
「良し♪ アルケニー、合体して一気に行くぜ!」
「イエス♪」
「「チェンジ、プレデターフォーム!」」
敵を離した俺とアルケニーがぶつかり合う。
背中にピンク色の蜘蛛の足型クローアームを十本背負った重装甲形態に変身だ。
「マカイザープレデターフォーム!」
「何だその気色悪い姿は、それでもヒーローか?」
「うるせえ! 俺達と出会ったのが運の尽きだ!」
『その通り、地獄へ落ちなさいな』
「ふざけるな、我がゼリーレイピアの剣捌ききを受けてみよ!」
クラゲ野郎が右手に細身の剣を生みだして襲い来る。
こっちもクローアームを伸ばして迎撃だ。
剣とアームが激しくぶつかり合う。
「くそ、我が剣も毒も通じないだと?」
「毒あるのかよ! 戦う相手の相性も悪かったな、止めだ!」
『プレデタークロー、スライドしま~す♪』
アームが変形してスライド、俺の左右の手を覆う巨大ガントレットとなる。
「潰れちまえ、サンドプレッシャー!」
「うぎゃ~~~~!」
俺は巨大化した両掌で、クラゲ野郎をバシッと叩いて握りつぶし爆散させる。
これにて一件落着だ。
敵の撃破を確認してから、アルケニーと分離する。
「敵の殲滅確認、お疲れ様でした♪」
「ああ、被害が出る前に解決できて何よりだぜ♪」
眷属達を魔力に変換して吸収し、ドーム結界を解くと同時に変身の解除。
被害を出さずに解決できたのは何よりだった。
うん、被害者とか犠牲が出ていたら敵を倒しても悲しいよな。
空を見上げれば、敵が出て来たゲートは消えていた。
「さあ、もう今日は買い物でもしてお屋敷へ帰りましょう♪」
「そういや、俺ら人前で変身したけど大丈夫かな?」
「私の蜘蛛の目で見た時は、こちらなんて誰も気にしてませんでしたよ♪」
「良かった、変身前の顔とか撮影されてなくて♪」
「ネットに上げられたりとか嫌ですよね♪」
「敵も嫌いだが、マスコミも嫌いだよ」
「私らのプライバシー、邪魔されたくはないですよね♪」
俺達は戻って来た人達とすれ違う形で御苑を出る。
魔力もカロリーも消費し過ぎて、もう戦えそうにない。
「お坊ちゃま、魔力は魔界のごはんを食べて鍛えましょうね?」
「瞑想とか呼吸法で鍛えるんじゃないの?」
「強くなるには食事も大事ですよ、帰りましょう♪」
「ああ、もう今日は休みたい」
「よろこんでお世話させていただきます♪」
ひと仕事を終えた俺達は、車で奥多摩にある屋敷へと帰還したのであった。
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