第4話 転校先と蜘蛛の糸
ヒーロー免許も取り、新たな学校への編入試験の結果も出た。
「一年生からやり直しか、まあ仕方ねえよな」
白のブレザーに灰色のスラックス。
青いシャツに赤ネクタイ。
これが今日から通う、都立ヒーロー科高等学校の制服だ。
新しい学校は、自然に囲まれ過ぎな奥多摩にある。
周りはヒーローがドンパチしても建物に被害がない、それしか良い所がない。
ほぼ山梨寄りだよ、東京の名前は返上しようよ。
徒歩通学してる他の生徒も俺と同じく、うんざり顔だよ。
認めようぜ田舎だって、田舎で良いじゃん。
学校以外は野原と畑と、昭和チックな個人商店しかない道を徒歩で進む。
『お坊ちゃま、お車出さなくて良かったんですか?』
「協調性は大事だから、悪い目立ち方はしたくない」
懐から出したクーネさんの眷属である黒蜘蛛を耳に当て、通話しつつ歩く。
俺の傍を通り過ぎて行く自転車や原チャ利用の生徒が羨ましく思えた。
何か、周りの生徒を見ると派手な髪形やら機械部品やらと個性あふれる面々だ。
元々は一般人上がりなので、こう言う非日常的な投稿風景は新鮮に感じるわ。
マシンで通学したかったけど、ヒーローのパワーや乗り物は通学には使えない。
ヒーロー免許の代金と、スマホ代で原チャの免許の分の金がない。
しばらくはお行儀よく歩いて通うと決めたので、面銅くささに耐えて歩く。
「君が
「宜しくお願いします」
どうにか辿り着いた学校、まずは職員室で先生と挨拶。
二十代で顔がうるさいイケメンの鷹倉先生に案内され、一年D組の教室へ入る。
「はい、おはようございます♪ 今日は新しい仲間を紹介します♪」
「
「ちょっと、先生! 変身の許可を下さい、彼を助けなきゃ!」
「そうだぜ先生、転校生から何か変なエナジー出てるよ?」
「大丈夫か、晴間君と言ったな? 僕達に任せろ!」
やってきた教室で名乗ると同時にトラブル。
拍手の代わりに、黒髪ロングの美少女や七三分けの眼鏡男子に赤い髪でレッドっぽい熱血少年が立ち上がった。
他の生徒達も、何か俺に不安げな目を向けて来た。
「落ち着け三人とも、心配はいらない。 彼は魔界由来の力を持つヒーローだ!」
先生が真面目な顔で立ち上がった三人を制する。
「えっと、魔界チェンジ! 魔界勇者マカイザー!」
許可とかもらっていないが、身の証になるかと思い変身して見せる。
「見ての通りだ、パワーソースは違えども彼は我々の仲間だ」
「はい、ごめんなさい」
「先生、申し訳ありませんでした」
「すまねえ転校生、気分を悪くさせちまってごめん!」
何か、素直に謝られて逆にこちらが驚いた。
「いや、俺もまさか魔力がこんな反応されるとは思わなかったんで」
三人が席に着くと同時に俺も変身を解くと、改めて拍手が起きた。
三人とも良い奴だった、ヒーローの学校凄いな生徒の善属性ぶり。
「はい、改めて宜しく♪ じゃあ、席は赤羽君の隣だな」
先生が窓側の最後部の席を示す、赤髪レッドの隣か。
「何か気まずいな、俺は
「宜しく、こう見えて魔王の孫で魔界のお坊ちゃまなんだ俺♪」
「属性モリモリだな、ようこそD組へ♪」
俺は武と拳を合わせた、こいつとは何か気が合いそうだ。
HRが終わり休み時間、七三眼鏡と黒髪ロングが俺の席に来た。
「晴間君、さっきはすまなかった!」
「私も本当に、ごめんなさい!」
「いや、良いから気にしないでくれよ」
二人は頭を上げる、黒髪ロングの子はちょっと引き気味の顔だ。
「えっと、蜘蛛と狼と蝙蝠とミイラの霊が威嚇してるんだけど?」
「そうか、御子神君は霊的な物が見えるんだったな。 僕は金田、宜しく」
黒髪ロングの御子神さんに七三眼鏡の金田君が名乗る。
「ごめん、俺の最愛のガーディアン達なんだ!」
「あれ、霊が消えた? これで普通に話せる」
うん、メイド達の機嫌がよくなって生霊下げてくれたな。
「勇太、委員長達と俺は免許持ちなんだけどお前もか?」
「ああ、持ってる」
一般人向けの学校から転校する場合の条件が、ヒーロー免許取得だったんだ。
受験して入って来たであろうにこのクラスの面々、無免許が多いのかな?
武に尋ねてみる。
「お前が四人目だ、一年での免許所得率が最低なんだよこのクラス」
「赤羽君、他のクラスと比べないの!」
「そうだぞ武、スタイルはそれぞれなんだ。 卒業して取る道もある」
「悪い、三人共ここで言い合いはやめてくれ」
何となく、クラス内の戦闘力の序列が分かった。
俺とこの三人がクラスの強い奴四天王か。
三人がごめんと謝る、良い奴らだな。
ヒーロー学校のせいか、俺の通っていた一般学校よりも善人の度合いが高いぞ?
俺は、編入試験の結果などから学校の中で落ちこぼれクラス的な所に転校して来たらしい。
変な異能バトルとかは、悪の組織との実戦だけにして欲しいぜ。
と思うんだが、行事やらで他のクラスと競い合う事になるだろうな。
「なるほど、誘拐からとはあるあるな事情だな」
「あ~、確かにあるあるだな」
「日常が崩れるって、大変だよね」
「いや、俺のエピソード聞いて品評するなよ?」
昼休み、自分の席で弁当を食おうとしたら金田君達が来た。
「勇太、弁当から黒いエナジーが出てるぞ?」
カツサンドに焼きそばパンとコーラな武が驚く。
「失礼な、愛情だよ」
家のメイド達が作った四段重ねの重箱弁当だ。
武は超科学的な戦隊のレッドらしく、魔力をエナジーと言う。
「うん、それはわかるけど重いよ君の所だけ空気が」
「御子神さんはこっちと反対で、米が光ってるよ」
「彼女の家は神社だそうだ、対極だな」
金田君が、アメリカ軍も食べてると言う銀パックの宇宙食を食いながら語る。
巨大ヒーローなのでカロリーが沢山必要だとの事。
御子神さんの弁当は、シャケ弁当に見えるが銀シャリと言うか米から光が出てた。
聖別された米だろうと思う、何かちょっと彼女の弁当からの光で肌がひりつく。
俺の四段重ねの重箱は、一段目の箱がマミーラの作ったコシャリの箱。
米とパスタと豆が混ざってトマトソース味のエジプト料理だ。
二段目はアネットさんのハンバーグとステーキ、オニオンとポテトの箱。
三段目はヴィクトリアさんによる和風の豆腐サラダのみの箱。
ラストはクーネさんのデザート箱、カットされたバナナにキウイに林檎。
愛情とカロリーの詰まった弁当を完食した。
しかし、俺の弁当の中身に対して目の前の新しくできた友人達は引いていた。
「そうだ、クラス用のSNSの招待送っとくは」
「おう、省かれないって良いな」
「前の学校で、何か問題でもあったのか?」
「まあ、碌な事は書かれてないだろうな」
食後、武と金田君とスマホで連絡先やSNS登録をする。
御子神さんは、他の女子達と話してた。
午後の授業も終わり、転校初日は無事に終わった。
学校を出て一人で歩いていると内ポケから黒蜘蛛が出てくる。
『お坊ちゃま、人目もなくなりましたのでお迎えに上がりま~す♪』
「え、何か事件でも起きたのか?」
俺とクーネさんだけのスマホ代わりの黒蜘蛛での通話。
通話が切れると同時に目の前からやってくる人影。
メイドキャップ付きのピンク色の女性型の蜘蛛怪人。
戦闘モードのクーネさんが、ピンク色の蜘蛛を模したトライクに乗って現れた。
「お疲れ様でした~♪ 魔界メイド、ピンクアルケニーがお迎えに参上♪」
「いや、テンション高いなクーネさん!」
「さあ、私の愛車にどうぞ♪ ああ、メットはこれです♪」
背中から腕を出したアルケニーが、俺にピンク色のヘルメットを被せる。
そのまま蜘蛛の腕で俺を持ち上げ、後部座席に乗せる。
「はい、運命の糸ならぬシートベルトです♪」
「いや、蜘蛛の糸じゃん!」
「世界一のシートベルトですよ♪」
俺がアルケニーの腰に手を回すと同時に彼女と蜘蛛の糸で括り付けられる。
「そうそう、事件ですがこれから探しに行きましょう♪」
「パトロールは良いけれど、明日も学校だからね?」
「いや~ん、真面目♪ そこはお任せあれ、主の学歴もお守りいたします♪」
「あなんたの性格、ちょっとトリッキーすぎませんか?」
「いえいえ、ただのミステリアスな良い女ですよ私は~♪」
怪しげなトライクは走り出し、俺はクーネさんと放課後のパトロールに出かけた。
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