第3話:ヒーロー活動開始

 翌週、俺はメイドさん達と奥多摩の森の中にいた。


 「くんくん、十時の方向に敵がいまちゅ!」

 「おっしゃ、くらえ!」


 アネットさんの言葉に従い、俺はビームライフルを撃つ。

 出てきたドローンから、ターン! 

 と、音が鳴り命中判定が出る。


 この銃は、実戦用のビームライフルではない。

 射撃競技の、引き金を引くと銃口からスマホカメラのフラッシュと同じ光が生まれてドローンのセンサーが光の反応をキャチするという仕組み。


 同時に、スピーカーから警報音が鳴り試験終了のアナウンスが流れた。


 「おっしゃ、やったぜアネットさん♪」

 「これで私達も合格でちゅね、お坊ちゃま♪」


 俺はアネットさんとハイタッチを交わす。

 これで、ヒーロー免許実技試験の最後の科目が終わった。


 「後は発表と、講習と交付だねアネットさん♪」

 「イエス♪ どうでちゅか、私のアシストは♪」

 「ああ、助かったぜ♪」


 奥多摩にある東京都のヒーロー免許試験場。

 ヒーロー免許とは、簡単に言えば怪人や怪獣に対する狩猟免許と運転免許だ。

 ヒーロー用の強力な武器や乗り物の所持や携帯、使用が可能になる。

 ヒーローとして仕事をするにも必要だし、姉とさん達魔界の住人には人権を保証する命のパスポートだ。


 俺はアネットさんのヒーロー免許の更新に合わせる形で、休みを利用して免許の試験を受けに来ていた。

 俺の免許所得とアネットさんの更新が一緒だったのは、チームで申し込みだから。

 免許の取得には、色々とコースがある。

 その中で、チームとして受験するなら免許の初取得だけでなく更新の実技試験も仲間と一緒に受験できる。


 「私ら魔族って、地球だと野良の怪人や怪獣と扱いが同じなんでちゅよ」

 「じゃあ今まではどうしてたの?」

 「お坊ちゃまのお祖父様の使い魔、いわゆる魔法少女のマスコットとかと同じ扱いでちゅね」

 「いや、買い物とか普段の暮らしはどうしてるのさ?」

 「表向きには、毎回魔界から召喚されている扱いでちゅ」

 「う~ん、ちょっと不便だなそれ?」

 「まあ、人間が下手に魔界に来たら同じ扱いでお互い様でちゅね♪」

 「いや、どっちもどっちかよ!」

 「まあまあ、生活するなら免許持ってればいいだけ何で結構温情でちゅよ♪」


 試験場の食堂でアネットさんと定食を食いつつ語り合う。

 命の恩人と言うか恩モン娘に、俺はどう報いれば良いのか?

 

 試験場を出て駐車場の赤いジムニーに乗り込む。

 アネットさんの運転で、屋敷に帰るまでのドライブが始まった。。


 「は~~~♪ お坊ちゃまと二人きりのドライブ、最高でちゅね♪」

 「運転ありがとう、アネットさん」

 「んも~~♪ アネットで良いでちゅよ~♪ もしくはハニーで♪」

 「いや、流石にお互いの親密度とかがですね?」

 「これから毎日上げて行こうぜ、アタシの愛しいお坊ちゃま♪」

 「いや、赤ちゃん言葉はキャラ作りかよ!」

 「もう、ワーウルフ族は愛しい雄にはベイビーでちゅ♪」

 「いや、あんた運転中だろ! あざといけど可愛いな、悔しい!」

 「はい、お坊ちゃまのデレいただきまちた~~っ♪」


 アネットさんと、ボケとツッコミの漫才をしながらドライブデート。

 これが俺の人生の初デートである。

 こうして話して見ると、彼女の事が好ましく思えて来た。


 「……ち、この臭いは敵かよ! 折角二人きりだってのに!」

 「ああ、ヒーロー免許取ったその日に出くわしたか!」

 「コインパーキングが近くにあったのはラッキーでちゅ!」

 「うっし、ちょっと初動は遅れるがやろう」

 「法律を守らないと、ヒーローも車も免取りとかの刑罰でちゅからね!」


 俺達は車を駐車場に止めて降車。

きちんと、駐車場の代金を払い車にロックとしてと防犯対策してから現場へ急ぐ。


 さっきまで俺達が走行していた道路の数百メートル先で事件が起きていた!


 「ヒャッハ~! カラメ~ルおばさんのキャンディ攻撃をくらいな!」


 全身を赤と白の飴玉を模したドレス姿の魔女が現れ、ファミレスの駐車場から周囲に爆弾を投げ始めるのが見えた。


 火の粉が飛び散る程度の爆発だが、危ない事には変わらない。

 モンスターパワーで走って来た俺達は、魔女の前に立ちはだかる。


 「待ちやがれ、魔女野郎!」

 「ヒーローが相手でちゅ!」


 大声でヒーローが来た事を周囲に伝える。

 市民を安心させるためと、戦闘が始まる現場に人々を近寄らせないためだ。


 「行くぜアネットさん、変身だ!」

 「オッケー、マイロード!」

 「「魔界チェンジっ!」」


 俺はマカイザーの姿に変身。

 アネットさんは、真紅のライダースーツを纏った人狼のモンスターに変身した。

 変身後の彼女の頭にはメイドキャップ、メイド要素はそこだけか!


 「魔界勇者マカイザー!」

 「魔界メイドブラッディウルフ、デートの邪魔は許さねえ!」


 俺達は初名乗りを上げる、怪人一体なら俺達で行ける。


 「ちい、魔界の奴らが邪魔してるって聞いたがあんたらかい!」

 「マイロード、ここは私が!」

 「いや、相乗りで行こうぜ!」


 俺とブラッディは同時に敵へと突っ込む。

 魔女が飴玉型の爆弾を投げるが、こっちはびくともしない。

 マカイザーの防具、防御力が高いな。


 「「ダブル魔界アームロック!」」

 「うぎゃ~~~っ!」」


 俺とブラッディが左右から同時に魔女の腕に飛びつきアームロック。

 一気に魔女の両腕を折り気絶させる。


 「パピルスホールド!」


 魔女から離れる俺達。

 俺は止めに、掌から魔女の術を封じる呪いの包帯を射出してミイラみたいに巻き尽くして拘束する。

 いや、敵だけど市街地でド派手な技で殺戮するのは気が引けたので。


 「マイロード、その判断は正しいです我々の評判的に」

 「ありがとう、じゃあ警察が来たから引き渡そうか」


 サイレンを鳴らして黒い装甲車で来たのは、対怪人警察だ。

 怪人に対する専門の警察組織である、一応ヒーローとは協力関係にある。


 ヒーロー免許を彼らに出して見せてるけど、警察の人は俺達にも銃を向ける。


 「二名のヒーロー免許確認しました、彼らはヒーローです!」

 「防犯カメラに変身前後の様子も映っています!」


 俺らの身元を確認した黒い重装甲のおまわりさん達が叫ぶ。

 他のトルーパーと呼ばれる警官達は、俺らが捕まえた魔女を担ぎ装甲車へと運ぶ。


 入れ替わりに装甲車から、グレーのスーツ姿で黒髪ロングの美人だが眼鏡をかけた気真面目そうな女性警官が出て来た。


 「ご苦労様です、対怪人警察CVUの桜田と申します」

 「ご苦労様です、モンスターメイドコマンドーズのマカイザーです」

 「ブラッディだ、こちらの身元は知ってるだろ?」

 「ええ、把握しております。 変身は解除されて構いません」


 言外に変身を解けと言われたので解く。

 庶民なので警察は苦手だ。

 桜田と多分偽名を名乗る警察官に、トルーパーの一人が耳打ちする。


 「なるほど、あなたが赤星教授のお孫さんでしたか」

 「ええ、晴間勇太です」

 「旦那様は、警察の魔法学のオブザーバーでちゅ」

 「いや、そこまでは知らなかったよ」

 「おほん、褒章金は規定通り団体の口座へ。 あなたがたには、今後も健全なヒーロー活動をしていただく事を期待しております」


 そう言って、桜田さんは去り俺達も解放されて車に戻った。


 「は~あ、テンションダダ下がりでちゅ」

 「おっかなかったな、桜田さん」

 「CVUの頭らしいでちゅよ、相当な因果背負ってまちゅ」

 「あれは、迂闊に喧嘩したくないと思ったよ」

 「物理的にも社会的にも、勝つにはレベルが足りないでちゅ」


 CVUがヒーローの管理もしてるから、今後は関わりそうだな。

 車内に置いていた、ヒーロー免許の教本にも書いてある組織。

 CVU、カウンターヴィランユニット。

 日本語では、対怪人警察実力行使部隊。

 悪党だけでなく、ヒーローにも目を光らせ首輪で繋ぐ監視者達。


 無事に屋敷に帰れた俺達は、出迎えてくれたヴィクトリアさん達に塩でお清めしてもらった。


 「うへえ、あの鬼刑事と出会っちゃいましたかお坊ちゃま?」

 「噂では。その方自身も異能の超人だとか?」


 屋敷の地下にある基地で、クーネさんとヴィクトリアさんが俺にお茶を振舞いながらご愁傷さまと言って来る。

 アネットさんは、車もお清めだと言って地上ガレージでジムニーの洗車だ。

 桜田さんは、魔族でもお払いだお清めだと言いだすくらいおっかない人だった。


 「あ~~? お坊ちゃま、鬼桜の事より私達の事を見て下さいませんかね♪」

 「ええ、お坊ちゃまは私達四人の共有財産なのですから♪」

 「え、いやちょっと! 二人共俺の腕をどうすんだよ?」


 クーネさんとヴィクトリアさんが、両サイドから俺の腕を取り人差し指を吸う。

 何かエネルギーが吸われた後、逆に左右からエネルギーが流し込まれた。

 心臓がバクバクする、鼻血が出た。


 「ああ、勿体ない♪ 最高のチップですわ♪」

 「ドレイン、ドレイン♪ 役得役得♪」


 出した鼻血も二人に吸い捕らえた。

 いや、何だよこの儀式?

 使い魔に血を与えるとかのあれか?

 一方的な搾取じゃないから、まあ良いか?


 「はい、私らは終わりです♪ マミーラとアネットにもお願いしますね♪」


 クーネさんが俺の手を離す。


 「これは、魔族の恋人や夫婦が行なうエナジーの交換の儀式ですわ♪」


 ヴィクトリアさんも俺の手を離して説明する。


 「まさか、祖父ちゃんも同じこと祖母ちゃんとしてるのか?」

 「そりゃもう、国一番のラブラブカップルですからねえ♪」

 「交換し合う事で魔力を高める、レべリングですわね」

 「いや、RPGかよ!」


 この後、同様の儀式をマミーラさんやアネットさんと行った。

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