第2話:お化け屋敷にお引越し

「見知らぬ天井って奴か? いや、ここはもしかして祖父ちゃんの家か?」


 ベッドから起き上がり、俺の机やら箪笥類などが運び込まれ部屋を見まわす。

 記憶の範囲だと、ここは祖父ちゃんの家かな?

 中学時代は来ていなかったが、夏休みとかで遊びに来ていた場所だと思い出す。

 ドアがノックされたので、どうぞと告げる。


 「「おはようございます、お坊ちゃま♪」」


 ズラリと並んだモンスター娘のメイドさん四人、天国か?


 短い赤髪で頭頂部に狼耳が生えてるのは確か、アネットさん。

 吸血鬼なのに朝でも平気なのか、ヴィクトリアさんは満面の笑顔だ。

 ギザ歯な笑顔を見せるクーネさん。

 最後は昨日、力を貸してくれたミイラ少女のマミーラさんだ。


 「おはようございます、お迎えってこういう事で?」


 俺の問いかけに全員が頷く。


 「さあ、まずはお着替えからでちゅよ♪」

 「いや、着替えとかは自分でやれるっすよ?」

 「問答無用でちゅ♪」


 アネットさんが超高速移動で動き回り、俺を着替えさせる。


 「洗顔は私が担当ですよ、ハイスマ~イル♪」


 男役もできそうなクールな感じの声で、クーネさんが背中から複数の腕と洗面道具を出し俺を糸で絡めて洗顔と歯磨きとヘアメイクを開始する。


 「私はベッドメイクとお掃除ですわ♪」


 金髪縦ロールの巨女、ヴィクトリアさんはまともな仕事だ。


 「最後に私、マミーラが食堂へとご案内いたします♪」

 「あ、強制移動なんですね?」

 「巻きで行きますよ~♪」


 俺はマミーラさんの包帯に巻かれて背負われ、室内を移動し食堂へ連行された。


 「うむ、おはよう。 よくぞ生き延びたな勇太♪」

 「おはようと久しぶり、それで祖父ちゃんの隣のお姉さんは?」

 「あらやだ、私はあなたのお祖母ちゃんよ勇太♪」

 「ふぁっ! いや、どういう事?」


 久しぶりに会った、白シャツに赤ベストと洋風スタイルの顔の良い祖父。

 その隣には、牙の生えた笑顔をこちらに向ける黒いドレスを着て黒山羊の角を生やし炎の如き赤く長い髪をなびかせた太眉の美少女。

 祖母だと名乗る魔王っぽい美女がこっちに微笑むけどマジか?

 日曜の朝からとんでもない事態だぜ。


 「私の名はルビー・ゴートマン、あんたのグランマで魔王よ♪」

 「えっと、たしか赤星紅玉って名前じゃなかったの?」


 何と言うか、昔見せて貰った写真と別人なんですが?


 「日本人名ね、あんたが生まれてからはずっと魔界にいてこっちに来れなかったのよ」

 「まあ、色々事情があってね。すまなかった」


 祖父達に謝られる。


 「でも、祖父ちゃん達が派遣してくれたんだろ? 助かったぜ」

 「そろそろお前の異能が目覚める時期だと思っていたら、例の事件でな」


 俺の問いかけに、祖父の進三郎が答える。


 後から来たメイド四人が、朝食の牛乳と味噌汁とごはんとサラダとハムエッグを食卓に並べる。


 「簡単に言えばあんたは私の孫、未来の魔王でメイド達はあんたの兵で嫁よ♪」

 「いきなり嫁とか言われても、一夫多妻有りなのかよ魔界は?」

 「ルビーはザックリ過ぎだよ」

 「良いじゃない、シンプルイズチェストよ♪」


 魔界は薩摩藩ですか、おばあ様?


 祖母を名乗る魔王は脳筋っぽかった、魔界って怖そう。


 「まあ、私とルビーのなれそめは学生時代に色々とあったが省略で」

 「進三郎とあたしは最強のコンビで夫婦よ♪」

 「のろけはご馳走様です」


 食事を終えて説明がされる。


 俺は、この屋敷に引っ越した事と元の家と土地は処分し両親は魔界へ移住。


 学校も転校との事だった。


 「スピーディーすぎるけど、まあ全部悪の組織のせいだよね?」

 「勝手に決めてしまってすまない」

 「普通の日常を奪ってごめん、けど面倒は私達で見るから」

 「祖父ちゃんと祖母ちゃんには感謝だよ、怒りはあいつらにぶつける」


 俺は拳を握る、色々な感情はあるがぶつける相手は悪の組織だ。

 色んな人の日常を脅かす奴らは許せない。

 目覚めた力は、悪ををぶっ飛ばして世間の皆さんの日常を守る為に使う。


 「それでこそ私達の孫♪ 男は度胸、勇者は任侠よ♪」

 「うん、こっちもフォローするからなるべくカタギの皆さんには迷惑を掛けないように戦いなさい」

 「ああ、ヒーロー免許もきちんと取って戦うぜ♪」


 メイドさん達が拍手する、拍手しなくて良いよ。


 「そんな勇太にプレゼントよ、マオウバックル~~♪」

 「いや、マオウバックルって何さ? 魔王と言うよりハロウィンの南瓜だよ!」

 「最初はもっとゴテゴテした悪魔っぽいのを、私がデザインしなおした」

 「うん、お祖父ちゃんありがとう♪ ギリヒーローっぽい♪」

 「むう、祖母ちゃんにも感謝しなさい? 無くさないように一体化させるから♪」


 オレンジ色のハロウィンカボチャが浮き上がり、俺の臍の下に直撃し体内に入る。


 カボチャ型のバックルが体内に入り一体化した事で、俺の体の魔改造が始まる。

 頭の中に説明文が一気に雪崩れ込むと、ベルトを出し入れできるようになった。


 ベルトの機能でメイド達の力を変換してヒーローっぽい姿になれる。

 怪人の力を使うのは変わらない。

 だが、変身後のデザインが違うのは大きい。

 世間体的に変身した姿を怪人と見られるか、ヒーローと見られるかで変わるから。


 「それじゃあ、後はあんた達に勇太を任せるわ♪」

 「「サー、イエッサーーッ♪」」

 「え、ちょまて! 担ぐな~~っ!」

 

 俺は祖母の号令で動き出したメイド達に、わっしょいと担がれて行った。

 担がれて行った先で、怪人化した彼女達に噛み付かれその荒ぶるモンスターパワーを俺の体内に注入される事で彼女達と真の契約は完了した。


 怪人の姿で変身した俺にかしずく彼女達。


 「いや、絵面が悪の組織の首領だよ!」


 俺達はこれからヒーローチームとしてやって行くんだよ?

 昭和の悪の組織じゃないんだからね!

 魔界の感覚は俺の感覚とズレているようだ。

 俺は怪人形態が複数ある路線のヒーローになってしまった。


 マミーラさんの力を直に借りればミイラ怪人に。

 ヴィクトリアさんの力では金色の蝙蝠じみた怪人に。

 クーネさんの力ではピンク色の外骨格の蜘蛛人間。

 アネットさんの力では赤い狼人間。


 ヒーローの姿の他に、四つの怪人形態を手に入れた。

 これとフォームチェンジ機能も合わせるとゴロゴロ変わるな。


 ひとまず、人間に戻る。

 今度は、彼女達のモンスターパワーをヒーロースーツにした姿に変身して見る。


 頭部は大きな三日月模様の黄色の複眼で、口を開けた狼を模した真紅のフルフェイスマスク。

 胴体は金色の蝙蝠の頭を模した騎士鎧。

 腰にはオレンジのカボチャのバックル。

 装甲のない部分のスーツは黒。

 両腕はピラミッドを模した茶色のガントレットを装着。

 両足は膝から下は蜘蛛を模したピンク色のレガースとサバトン。


 うん、ギリギリヒーローっぽいデザインになってる。


 「取り敢えず、ヒーローネームは魔界勇者マカイザーと名乗ろう」

 「シンプルで良いと思いまちゅ♪」

 「魔界の力でいざ出陣だからマカイザーでしょうか?」

 「魔界の王座が約束されてるとも言えるし、良いね♪」

 「魔界と言っても、ゴートマン王国一国だけですけどね」


 俺の言葉にレスポンスが来る。


 「え、祖母ちゃんって魔界全土治めてる系な大魔王じゃないの?」

 「強さは大魔王クラスでちゅね、あのババもとい魔王様は」


 アネットさんが答える。


 「国土はそんなに大きくないね、けど人間にも友好的な良い国ですよ♪」


 クーネさんが微笑みながら語り出す。


 「これからお坊ちゃまには、魔界についてのお勉強もしていただきましょう♪」


 ヴィクトリアさんが虚空から分厚い本を取り出す。


 「人間界ではヒーロー、魔界では良き魔王様になりましょうね♪」


 マミーラさんが笑顔を向ける。

 魔界からは逃げられないな俺の人生。


 「よし、こうなりゃヒーローになって悪の組織を倒して皆の日常を守りつつ魔界と人間界の友好関係を築くぜ! 四人は俺の家庭教師役も宜しく頼む!」

 「「イエス、マイロード♪」」


 俺の言葉にメイド達が答える。

 こうして、俺のヒーローとしての活動方針が決まった。

 次は免許を取って、ヒーローとしてデビューするぜ!

 

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