第三.五〇話 深夜の電話
一応は社会人として自宅に電話線を引いて居るが、黒電話が鳴る時の向こうの相手は、大概がセールスの売り込み。
レイには肉親も居なければ、知り合いも友人も居ない。会社の人間達は知り合いとは云わない。只の同僚の人間だ。
両親はレイが幼い時に共に自殺した。詳しく云うと、車の窓を完全に閉め切っての練炭自殺。原因は知人の借金の保証人。二人が心から信用して居たソノ知人は、金を持ってマンマと逃げた。練炭の煙が父親が中古で購入した型落ちの車の車内を包み込み、ソロソロお互いの意識が無くなる頃、レイの両親は手を握り合った。ロマンティックの集大成が煙たい車内に在った瞬間。自殺は正義。
二人で一緒に死ねる感覚を得られる一番効果的な自殺方法は、練炭自殺だった。電車への等身自殺や、高いビルディングからの飛び降り自殺は、廻りに多大な迷惑が掛かる。持ち家を持たない彼等、アパルトメントの自室での首攣り自殺も、大家さんが其の後でチト大変!山奥での首攣り自殺も同様、山の所有者の迷惑になってしまう。焼身自殺はチト熱そう。自殺名所での等身自殺は、何かミーハーそうで嫌。
二人は幼稚園からの古い付き合いで、揃って童貞と処女を互いに捧げ在った関係だ。二人共に他人の肌の味は知らない純愛主義で朽ちた。
レイの両親が亡くなってからの身内の反応は、幼いレイをしても分かる位に薄情なモノだった。人は感情を心で感じる能力が在るが、レイは此の頃から肌で生々しく感じられる様になった。嫌な能力。
最終的に親類から孤児院に送られたレイ、そこからは他人を一切信用せずに成長した。両親の親戚達との付き合いも現在は全く無い。謂わば孤独な人生を送って来たレイ。だが決して嫌いでは無い。無駄な人間関係を最大限に排除して過ごせた、豊かで独りぼっちの人生。レイは知って居る。何かが自分には欠けて居る。私は謂わば人生の『パート従業員』みたいなモノだ。
だが今日、生まれて初めて友人が出来た。其の友人が真夜中に電話を掛けて来て、レイに訳の分からない御礼を言ってくれた。
「っあ、レイさんッ?私、マコト!あのね!あのねッ!何時もイツモ世界の公衆トイレを綺麗にしてくれて有難うッ!其れだけ言いたかったの!じゃあ、もう切るね、御免ッ!」
深夜の〇三時に突然の御礼を受けた当のレイは、一体何の事だか全く理解出来なかったが、勿論悪い気はしない。自分の仕事はあくまでも裏方で、基本的に全面に出る事は無い。公衆便所の利用者と偶に顔を合わす事は在るが、何か気まずい空気に包まれて、利用者の方から逃げてしまう。
マコトが電話を切る前に、レイは伝えた事が在る。
「マコトちゃん?今度の休み、二人で一緒に何処か行こ!」
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