第二.五〇話 「人生も捨てたモンじゃ無い!」

 (嗚呼、今日は本当に素晴らしい出逢いがあった。マコトがオシッコ我慢出来なくて公衆便所に駆け込んだら、レイさんが居て、綺麗に便器を掃除してた。居酒屋の『パート従業員』の仕事って大変だと思ったけど、世の中にはモット沢山の大変な仕事が在る、って痛感させられた日だった..)

 自宅に帰って来たマコト、居酒屋の勤務後はチト全身が臭くて匂う。仕事は嫌いでは無いのだが、唯一イヤな弊害が臭い。煙草や食べ物の匂いが協力し合い、不快な臭いに昇華。洋服の中の下着にもソノ臭いは媚びり付く。

 浴室でシャワーを浴びながら、今日在った出来事を思い出してみたマコト。何なんだったら鼻歌も歌ってたりもしてね。

 実を云うと最近のマコト、いや、生まれてからのマコトは一度も幸せを体感した事が無い。廻りの人間が行くからと云う事で、取り敢えず大学にも行った。そして学友達は皆が就職をした。だがマコトは、いざ大学を卒業してみても何故か就職はしたく無かった。大学院に進む訳でも無かった。したくも無い勉強をする為に、更に又行きたくも無い学校に通うのか?年齢が二十二歳に届いたところで漸く自我が芽生えたのだ。

 マコトが選んだ仕事は居酒屋。然も『パート従業員』。大学を卒業する迄、必死にマコトの授業料を支払ってきた両親は悲観、そして激怒した。大学にも行かせて、卒業しても就職しないだとォ?更に見付けた仕事が居酒屋だァ?然も『パート従業員』だとォ?コレは詐欺か?

「マコト!お前、親を舐めてんのかッ!?」

 上等だ。

 これが理由でマコトは家を出た。今では実家で過ごして来た二十二年間以上に満足した日々を送って居る。正社員が一体何だ?『パート従業員』の一体ドコが問題なのか?大学を卒業して居酒屋で働いて居る事がダメなのか?そんな複雑な思いを大学を卒業してから抱いて居たマコト。暫くはコノ感情を忘れてたのだが、今日偶然レイと公衆便所で知り合って、シャワーヘッドを左手で忙しく振り廻してお湯を浴びる中、ふと思い出した。其の瞬間、左手の動作が停止した。 

 (..公衆トイレで一生懸命に働くレイさんを見て、私は元気を貰った。コレって、もしかしてレイさんが公衆トイレで働いてたから?モシそうだとしたら、マコトも両親と同じ最低な奴だ..)

 勢い良く風呂から上がったマコトは、居酒屋でレイから貰った、電話番号が書いて居る紙切れに電話を掛けた。時間は既に深夜の〇三時を過ぎて居たが、如何しても今の自分の気持ちをレイに伝えたかった。

 

「っあ、レイさんッ?私、マコト!あのね!あのねッ!何時もイツモ世界の公衆トイレを綺麗にしてくれて有難うッ!其れだけ言いたかったの!じゃあ、もう切るね、御免ッ!」

 黒電話に受話器を置き、其れを利き手の左手に握ったまま、マコトは笑いながら号泣した。人生にヒカリを見出した気がした。

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