第二.〇〇話 マコトの立ち位置
「はァァい!五番テーブルさんにハイボール、ウヰスキーと炭酸水抜きのを三杯、お願いしまぁぁすッ!」
「へい!イラッ、シャイマセぇぇっ!っと、スミマセぇんッ、お客さんの顔が気に食わないんで入店を拒否しまァァすっ!」
「アっ、お客様ぁっ!チト申し訳アリマセンっ、足の臭いがチトかなりするので御座敷の方は御遠慮頂けますゥゥ..?」
「御来店、どうも有難う御座いましたァァ!又のお越しぉをッ!」
———客達のムンムンとした熱気と、其処で働くパート従業員達の一生懸命働く熱意。。この二重熱の魔法に包まれた、マコトが勤務する地球上の居酒屋。只今、平日月曜日の十九時四十八分也。
週明けの人間達はミナ獣と化す。既に過去のモノとなった、失われた先週末の二日間の短い休日。又新たな休日を手に入れるには、今日の月曜日から金曜日迄の五日間、会社員ならばビッシリ働いて、学生ならばビッチリ学校に通わなければならない。
其の初日の月曜日の夜は、何処の店もヤサぐれた客達の負の魔力のお陰で必ず荒れる。この店には正従業員は皆無。誰もなりたがらない。マコトもそうだ。『パート従業員』に比べて、微々たる賃金の上乗せと巨大な責任感の上乗せの正社員。時給制で働く『パート従業員』のマコトにとって、店は勿論ヒマな方が都合が良い。かと云って、正従業員の方がお得か?と聞かれると、そうとも限らない。パート従業員だろうと正従業員だろうと、トドのつまりは働かなければならない。唯一の違いは、正従業員の方が賃金がチト高めな事と、福利厚生の特典がチト分厚いと云う事。聞こえは良いが、正従業員にはパート従業員と違って、チト不利な面も在る。其れは会社に対して、一生懸命に働いて居る振りを演出し続けなければならない事。其の点、パート従業員は気持ちが楽だ。一生懸命適当且つ良い加減に働いても許される特権が在るから。だってパート従業員だもん、文句等は一切受け付けないよ。だって事実でしょ?
“パート”=所詮、欠けた部分を補う従業員。
“正”=王道且つ本格的且つ正統派従業員。
マコトは此の店で週に五日間働いて居る。『パート従業員』と想像すると、良く仕事以外の人生に何か確固たる目的が在って、其の目標を叶えたいとの理由で敢えて『パート従業員』を選択して居る者も多い、と誤解をして居る輩が多い。
人間の一日とは実は◯く出来て居る。人間はコノ◯グラフの中に、一日の目一杯の予定を描き込んで、其の決めた予定に沿って極力ズレない様、慎重に一日一日を生きる努力をする。一般的な正従業員は、最低でも八時間労働が義務付けられて居る。と云う事は、〇を占める二十四時間の内の“三分の一”の面積を、会社に捧げる計算になる。酷だ。『パート従業員』には其の括りが無いが、収入はチト落ちる。だが自由を手に出来る。たった其れだけの違いだが、長い目で見るとカナリ差は出る。だから殆どの人間は夢を追う事をせずに正社員を選び、そして老いては死んで行く。
『パート従業員』の代表格、役者志望で在れば、空いた時間に稽古をしたり、芝居の演者審査に出掛けたり。音楽家希望も作家希望も画家希望も、まぁ同じ様な事を空き時間を使っては有効活用して居るだろう。
「マコト?」
マコトの場合、この◯グラフの入力方法は非常に簡単。居酒屋で働いて居る時間帯を除いて、全ての余白はソノママ余白。予定も無ければ入れるつもりも無い。二十四時間からパート勤務の時間をサッ引いて、残った全ての時間が余白。其の時にやりたい事を其の場で成し遂げる手法の即興人生。
「折角この地球に生まれて来たのに、夢は無いのか?」と聞かれれば、「だったら夢を抱いて居なければ人間失格なのか?」マコトは其の様に返すだろう。
マコトは毎日現場で働いて思う。
(正従業員の人達って幸せそうに見えない。かと云ってさ、夢を追う為にパート従業員をして居る奴等なんかも、マコトのお店にやって来て、安いハイボール沢山呑んで、安いツマミしか注文しないで、冴えない連中と顔を真っ赤っかに火照らせながら、決して叶う事の無い夢を永遠に語ってるけど、マコトからすると、幸せな人生を送ってる様には全然見えない。其れは夢が未だ叶って居ないとかの問題じゃ無くてね。..あぁあ、人間って面倒臭い)
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