第4話 暴露作戦、そして破滅はどこへ
「どうしてこうなるの…?」
私は一人、舞踏会の片隅で静かにため息をついた。
リリィと踊った後、周囲の貴族たちから「セシリア様も素晴らしいダンサーですね!」と褒められ、さらには「お二人は本当に仲良しで、理想的な友人関係ですね」などと言われてしまう始末。
私が狙っているのはそんな美談じゃない! 私は悪事を働いて、破滅を迎えたいだけなのに!
頭を抱えながらも、リリィの姿をちらりと見ると、彼女は舞踏会の中心で堂々と注目を浴びている。彼女の純粋な笑顔と幸せそうな様子を見ると、何かを壊したくなる衝動がわき上がってくる。
「もっと、もっと悪事を働かないと!」
私は心の中で叫び、再び策を練り始めた。このままでは、リリィはどんどん輝いてしまい、私は破滅から遠ざかる一方だ。
もっと派手に、もっと確実に彼女を貶めなければ! そう決意し、次の計画を練り始めた。
******
次に目を付けたのは、リリィの出生だ。
彼女は庶民出身の娘でありながら、その素直さと才能で貴族社会でも評価を得ている。
しかし、庶民であるという事実は依然として彼女の弱点だ。もし、そのことを公然と話題にし、彼女の立場を揺るがせれば、今度こそ破滅に追い込むことができるはずだ。
「リリィの秘密……それを暴露して、みんなに彼女の真の姿を見せるのよ!」
私はその夜、リリィの過去に関する情報を探るために、密かに彼女の家族や旧友について調べ始めた。
貴族社会では、庶民出身というだけで下に見られることが多い。
そんな環境でリリィがどう成り上がってきたのか、その足跡を暴いてやれば、彼女の評判も大打撃を受けるはずだ。
******
数日後、私はある証拠をつかんだ。リリィの家族はかつて借金に追われていたという噂があったのだ。
それをもとに、彼女が貴族の恩恵を受けるために必死で努力していたという話を作り上げれば、彼女の「清純無垢な」イメージは崩れ去るだろう。
──そして、その決定的な瞬間が訪れた。
「リリィ、あなたに大事な話があるの」
放課後、私はリリィを静かな場所に呼び出した。
彼女はいつものように、私を信頼しきった笑顔でやってきた。
これまで何度も私が彼女を裏切ろうとしても、その笑顔は変わらない。それが私を苛立たせ、同時に一層の罪悪感を感じさせるのだ。
「何でしょうか、セシリア様? いつでも相談に乗りますよ。」
彼女は何の疑いもなく、私に近寄ってきた。私はそんな彼女を見つめながら、心の中で叫んだ。
──ごめんなさい、リリィ!
でも、これであなたを破滅させないと、私は楽しめないのよ!
「実は、リリィ……あなたの家族について少し話を聞いたの。どうやら借金が原因で苦しい生活を送っていたそうね」
そう告げた瞬間、リリィの表情が一瞬だけ変わった。彼女は目を見開き、言葉を失ったようだ。
──よし、今度こそ成功だ! これで彼女は動揺し、立場を失うはず……!
だが、その期待とは裏腹に、リリィはすぐに微笑みを取り戻し、優しくうなずいた。
「ええ、確かにそうです。家族は借金に苦しんでいました。でも、それを隠すつもりはありません。私はその環境を乗り越えてここにいますし、今でも家族を誇りに思っています」
──な、なんですって…?
予想外の反応に、私は言葉を失った。
リリィは堂々と過去を受け入れ、それを誇りにしている。
私が暴露しようとしたことは、彼女にとっては弱点ではなかったのだ。
「セシリア様が心配してくださっているのなら、ありがとうございます。でも、私は過去を恥じてはいません。それよりも、これからの未来をもっと良くするために努力しているんです」
彼女の言葉は真っ直ぐで、揺るぎない自信に満ちていた。私は彼女を傷つけるつもりだったのに、逆に彼女の強さを見せつけられ、どうしていいか分からなくなった。
しかも心配してくれている、というようなイメージまで着いてしまった。
「な、なんで……? なんで、あなたはそんなに強いの?」
思わず呟いた言葉に、リリィは微笑んで答えた。
「それは、セシリア様のおかげですよ。あなたが私を導いてくれたから、私は強くなれたんです。あなたの存在が、私にとって大きな励みなんです。」
──違う! 私はあなたを励ますつもりなんて全然ないのよ!
どうして私の悪事が、いつもこうやって裏目に出てしまうの!?
私はリリィに何も言えず、その場から逃げるように去った。彼女の笑顔が、私を追い詰めるように感じられる。
「私は破滅したいだけなのに……!」
自室に戻っても、悔しさと絶望が交互に押し寄せてきた。
私は悪役令嬢として破滅のルートを進むはずだったのに、なぜか誰も私を罰してくれない。
リリィはますます強く輝き、私がやることなすこと、すべてが彼女を助ける形になってしまう。
──どうしたら、この歪んだ世界で本当に破滅できるのか?
「もう……これ以上、どうすればいいのよ……」
私は深いため息をつき、途方に暮れていた。
このままでは、本当に破滅なんて訪れないかもしれない。
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