第5話 どうやら私は恋のキューピットになっていたらしい
「もう…どうしてこうなるの…?」
私はベッドにうずくまり、天井を見つめながら再びため息をついた。
何度計画を立てても、それがすべて善行に変わり、私は悪役どころか「善良な令嬢」として評価されてしまう。
この歪んだ現実に、どう抗えばいいのか、もはや分からない。
「悪役令嬢としての役割を果たしているのに、どうして誰も私を罰してくれないの?」
私がどれほど悪事を重ねても、周囲は私を責めるどころか称賛するばかり。
リリィはもちろん、学校の先生や貴族の仲間たちまでもが、私に対して好意的だ。
どう考えても破滅に向かっているはずのこの道が、なぜか善行の道になってしまっている。
「もっと大きな悪事を……いや、そんなことしてもどうせまた善行に変わるんでしょ……?」
何をしても報われないこの状況に、私は心の底から途方に暮れていた。どれだけ頑張っても、私の行いはすべて良い方向に解釈されてしまう。
もはや何をやっても無駄だと思い始めていたそのとき、部屋の扉が控えめにノックされた。
「セシリア様、失礼します。」
扉を開けて現れたのは、リリィだった。
──また彼女か!
この笑顔、純粋無垢なその表情を見るたびに、私は自分がどんどん悪役として機能しなくなっていることを実感する。
「何の用かしら……?」
不機嫌な様子で問いかけると、リリィは慌てて手を振った。
「すみません、突然お邪魔して。でも、どうしてもセシリア様にお礼が言いたくて……!」
「お礼……?」
また「お礼」だ。
最近は、私がリリィから感謝されることが日常になりつつある。
まったく腹立たしいことだが、今回は一体何を感謝されるというのだろう?
「はい! この間の舞踏会の後、クラウス様とお話しして、正式にお付き合いを始めることになったんです!」
──なんですって?
リリィは頬を赤らめ、照れたように微笑んでいる。
クラウス様と……正式に交際? つまり、あの舞踏会での「悪事」が結果的に、彼女の恋愛を成就させたということだ。
「セシリア様があの手紙をクラウス様に託してくださったおかげで、私、彼と素直に気持ちを伝えることができたんです。本当にありがとうございます!」
「いや、私は、その……」
私は動揺していた。
あの手紙はリリィを恥をかかせるための偽ラブレターだったはず。それがまさか、彼女とクラウス様を結びつける結果になるなんて…。
これまでの「善行」に加え、恋のキューピッド役までこなしてしまったのか? こんなはずじゃない!
「セシリア様、本当に感謝しています。あなたがいなければ、私はきっとクラウス様と結ばれていなかったでしょう。」
リリィの瞳はまっすぐで、嘘偽りのない純粋な感謝が込められている。
それに対して、私はどう返事をしていいのか分からなかった。何も言えず、ただ俯くだけだ。
──もう嫌だ。私は悪役なのに、なぜこんなに称賛されるの?
私が目指す破滅はどこに行ってしまったのか。
これまで積み上げた「悪事」はすべて善行に変わり、誰も私を罰してくれない。それどころか、私は今や「良き友人」「善良な貴族令嬢」として、周囲に持ち上げられているのだ。
「セシリア様、本当にありがとうございます。これからも、どうか私の友人でいてくださいね。」
リリィは私の手を握り、力強くそう言った。
──友人。
私は彼女の破滅を望んでいたはずなのに、いつの間にか彼女の友人として受け入れられてしまっている。
「私は、あなたの友達なんかじゃないわ……」
心の中でそう呟いても、声には出せなかった。
私の全ての企みは、リリィにとっての恩恵となり、彼女をより強く、輝かせてしまう。私は自分が何をしているのか分からなくなってきていた。
リリィが去った後、私はベッドに倒れ込み、呆然と天井を見つめた。
「もう、どうしたらいいの……?」
私が追い求める破滅は、ますます遠くなっていく。これ以上何をやっても、すべてが善行に変わってしまう気がして、次の策を練る気力すら湧かない。
私は果たして、本当にこの世界で破滅することができるのだろうか?
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