第20話

「はい?」




わたくしはその場から動かない。




「何故に、いけないのでしょう」




目の前まで来られた鐘鬼様に顎を掴まれ、クイッと上を向かされる。



より近くなった鐘鬼様のお顔。



確かに刹鬼様と鐘鬼様、お二人はとてもよく似てらっしゃいますわ。




け・れ・ど・もっ。



刹鬼様の方がより端正で肌のキメも細かく、色っぽさなど




「何故、人界に行ってはいけないのですか?」




ちょっと。


今、刹鬼様の魅力を語っているのに遮るとかっ。



イラッとしつつ、気を静める。



……ふぅ。




逆に




「鐘鬼様は何故、禁止されているのに行きたいのですか?」




禁止されているということは、破れば罰が待っている。


それは鐘鬼様とて例外ではない。




「「…………」」




キスが出来そうな距離で睨み……見つめあう。




「私は申しましたが?」



「本当に砂鬼様を人界に連れて行きたいだけだと?」



「「…………」」




ハラハライライラとわたくし達を見ていた砂鬼様が、え?って顔をしている。



返事がない、それが貴方様の答えということですか。




「三界、そして鬼ヶ島。それぞれの界にそれぞれの法秩序が存在します。それを他界の者が乗り込み、乱し犯すことは許されておりません。……況してや人間を喰らうためなどとは」



「……」




もっての他です、と静かな声で言う。




「姉上」



「はい」



「姉上は憎くないのですか?」



「……憎い?」



「この綺麗な角」



「っっ」




鐘鬼様がわたくしの折れた角に触れる。




「折ったのは人間でしょう」



「それは……」



「下等な人間ごときが、鬼の誇りである角を折るなど……」




鐘鬼様の瞳があらゆる負の感情でギラギラと光る。




「憎いでしょう?姉上、人間が。私が手を貸しますよ。人間への復讐に」



「そんなこと望んでおりません」



「……」




キッパリと断る。



確かに、わたくしは人間に角を折られました。



小さな小さな頃。



しかし、今が幸せであるからそんなこと忘れていました。



角が折れ、誇りも折れたこんなわたくしを刹鬼様は愛してくれるから。




「姉上……。貴女を縛っているのは兄か」



「違う!!」



「鐘鬼様!奥様をお離し下さい!」



「止めなさい!真鬼!」



「奥様!!」




鐘鬼様に向かっていこうとする真鬼を止める。




「丁」



「っっ」










その名をっっ

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