第19話

呼び方など今はいいのですわ。



今は……。




「それで姉上。扉は通して頂けますか?」




その問題を解決せねば。



わたくしは砂鬼様に突き付けていた釘バットを下ろす。



刹鬼様と鍾鬼様。



仲の良い兄弟とはいえず……。



刹鬼様の命に、なかなか従っては下さらない。




「嫌だな。ただ愛しい妻に美しい人界を見せてあげたいだけですよ」




なぁ?砂鬼。と砂鬼様を見る鍾鬼様。



愛しい妻……ですか。



その妻は、さっきの貴方様の睨みで真っ青のガクブル状態ですが?



コクコクと言葉もなく頷く砂鬼様が首振り人形のようで滑稽。



まぁ、理由を聞いたところで通さないんですけれどね。



さっきも言いましたが、刹鬼様の命令は絶対です。



それに……本当の理由は違いますわよね?




鍾鬼様の冷たい黒瞳を真っ向から見つめ返し、トンッと釘バットの先を地につける。



そして




「なりません。何人たりとも扉を通ることは許しません。お帰りを鍾鬼様」




言い放つ。




「……」



「なっ、なっ……っっ!?」




ドンッ!!


と一気に空気が重くなる。



鍾鬼様の殺気で。



何か言いかけた砂鬼様も歯を食い縛るように口を閉じ。



真鬼はなんとかその場で踏ん張っているけれど、顔色は砂鬼様と同じく真っ青。



ごめんね真鬼、怖いわよね。



わたくしは両手をお腹の前でギュッと組んでる真鬼の手に片手を添える。




大丈夫よ、貴女には指一本触らせないから。



そしてインカムの向こうで固唾を飲んでる刹鬼様も。



心配なさらないで。



貴方様の嫁、即ちわたくし最強ですから。




「姉上」




一歩、また一歩と鍾鬼様が近付いてくる。



ドス黒く重い殺気を纏って。

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