第18話

「奥様……いえ姉上と呼ぶべきですか」



「どんな呼び方でも結構ですわ。鍾鬼様のお好きなように」




そう言うと少し考えた鍾鬼様。


そして




「では、丁、と」



「申し訳ございません、鍾鬼様。姉上と呼んで頂けます?」




ニッコリ。




「「……」」




鍾鬼様もニッコリ。




「ハハハ」



「フフフ」




でも瞳は笑っていない。



何故?と問いかけてくる。




「今、どんな呼び方でも良いと」



「はい、言いましたわ。でも名前は別です」




"丁"



この名を呼んで欲しいのは


呼んでいいのは




「わたくしの名前を呼んでいいのは旦那様だけです」




刹鬼様だけです。



まだ呼ぶのであれば……戦いましょう。



これは譲れませんから。




「そうでしたか、すみません。では姉上と」



「はい。よろしくお願いいたし」



「鍾鬼様!!」



「……」




まだわたくしが話しているのですが?




「謝る必要はありませんわっ。この女がっ」




……この女?



失礼なっと前へ出ようとする真鬼を押さえ……









ビュッ!!




「ひぃいっ!?」



「砂鬼様」




わたくしは砂鬼様の眼前に釘バットを突き付ける。



急に、目ギリギリに止まった釘バットに驚きと恐怖で目を見開く砂鬼様。




「この女とはお口が悪いですわね。わたくしが"王"の妻とわかっていて、そのように呼んでいるのですか?」




鍾鬼様にも負けない、冷めた瞳で砂鬼様を見やる。




「っっ」



「それに」




釘バットを砂鬼様に突きつけたまま、視線を今度は鍾鬼様へ。




「妻の貴女様がそのようであれば、鍾鬼様の品格も疑われますわよ」




わたくしの言葉に砂鬼様を見る鍾鬼様。



その瞳は先程よりも更に冷たく、満月の光を受け鈍く光る。



そんな瞳に見られ、ザッと青ざめる砂鬼様。




「ももも申し訳ございませんっ。鍾鬼様!」



震える声で謝るけれど、わたくしの名前は呼ばれない。



砂鬼様がわたくしを嫌っているのは知っています。



わたくしが居なければ、刹鬼様の妻は貴女だったんですものね。



でも、わたくしと刹鬼様は出逢ってしまった。



長い刻をかけて愛を育んだ。



そう、わたくしと刹鬼様、大・恋・愛なのですーっ。



きゃっ。



だから嫌われてるとわかっているので容赦はしません。




「私に謝る前に、姉上に謝りなさい」



「っっ。もっっ申し訳ございません……奥様」



「わかって頂けたのなら良かった」




わたくしは艶然と微笑む。



クックックッ。


アーッハッハッハッハッ!!


めっちゃ、悔しそーっ。




「奥様、楽しそう」



「うん!楽しいっ」




真鬼の笑顔に、笑顔で答える。



悪意には悪意を。







……ハッ!!

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