第16話

『……』




どうやら刹鬼様にも、この御方のお声は聞こえてしまったよう。



インカムの先から伝わってくる緊張。




大丈夫、大丈夫ですわ刹鬼様。




「真鬼。下がりなさい」



「ですが奥様」



「大丈夫よ、下がりなさい」




わたくしはニッコリと笑って、真鬼を安心させ下がらせる。



わたくしを守るために前に出てくれた真鬼。



でもね、あなたでは敵わないわ。



わたくしはあなたが怪我するところは見たくない。




わたくしにも真鬼にも気配を感じさせず近づいてきた、この御方は。




「こんばんは、鍾鬼様。本当に背筋が凍りそうな程綺麗な満月ですね」




真鬼に向けていた笑顔のまま、話しかける。



満月の光に照らされて悠々と立つそのお姿は、刹鬼様と瓜二つ。



いえ、刹鬼様のが絶大カッコ良いのですけれどね!


全てにおいて刹鬼様が上、ですけれどね!



わたくしの旦那様、世界一!ですけれどね!




しかしその気配は似て非なるもの。



刹鬼様から感じる暖かさと優しさ。



それがこの御方からは一切感じられず、感じるのは冷たさと残虐さ。



お名前は鍾鬼(しょうき)様。



刹鬼様の弟君で、人間を食糧と……遊び道具と考える危険思考で、刹鬼様ほどの実力はあれどその思考ゆえ"王"になれなかった御方。



だから真鬼がここまで警戒しているのだけれど。




「あら、砂鬼(さき)様も御一緒でしたのね。お二人仲良くお散歩ですか?」




鍾鬼様の後ろに控えておられた御方に気付く。



赤い紅の良く似合う、色っぽいこの御方は鍾鬼様の奥方様で、お名前は砂鬼様。



こんばんは、と挨拶するも睨まれてしまいました。



何故か昔から嫌われているのです。


何故でしょうねぇ。



わたくしへの敵意に真鬼が反応し、砂鬼様を睨む。



もう、可愛いんだから真鬼は。



好きにさせてやりたいけれど、今は大切な任務中。



無駄なイザコザは避けねばなりません。



ドウドウと真鬼を宥めていると




「そうなのですよ。あまりに綺麗な月夜に砂鬼を誘って、人界にでも散歩に行こうかと思いまして」








ピクッ。










優しげに見える笑顔で、鍾鬼様が宣った。

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