第10話

「あ、多鬼」




多鬼が現れた。



深海のように深い青色の短髪。


明るい茶色のタレ目。


普通の一角。



刹鬼様の片腕……チッ。




「俺の説明雑じゃないっすか?舌打ちもしてるし。てか、あ、多鬼。じゃないですよ。何アホなことを言ってるんですか、奥様」



「アホ!?」




え?



コイツ、アホって言ったのですけれど?


主の妻にアホって言ったのですけれど?




「桃より先に滅してやるわ、多鬼」



「それがいいです。奥様」



「よね」




真鬼も賛成してくれることだし。




「よね、じゃありませんよっ。素振りをっ、釘バットを素振りすんの止めて下さいっ」



ブォンッ!!


とても良い音に多鬼の顔が青ざめる。



あら、髪の色と一緒!




「『なんっじゃコリャア!?』なんて変な叫び声を上げるから来てみればっ」




んげっ。


聞こえてたっ。



多鬼に聞こえたってことは……


刹鬼様にも!?




「当然、聞こえてますっ」




はぁああああああああああっっ。


なんたる失態!!




「奥様っ!?」



「丁っ」



「!?」




あまりの失態に気を失いかけ倒れそうになった所を旦那様に抱き留められる。



ああっ今日もカッコいいです、旦那様!!




「どうした?どこか具合でも悪いのか?」




心配だ、という顔で刹鬼様に顔を覗き込まれる。



心配して下さるのですねっ。


って、心労をかけちゃダメじゃないのっ。




「大丈夫です!全然、元気です!ほらっ!」




わたくしは釘バットを振り回す。



ああっ、もうちょっと抱き締められていたかった!!




「そうか。良かった」




ホッとしたように刹鬼様が微笑まれる。



優しい、優しい表情。


ずっと見ていたい。



けれど




「刹鬼様。わたくし、人界に行って参ります」



「人界に?」




刹鬼様の表情が険しくなる。



う"……。



怯みそうになるけれど、ここで退いてはダメよっ。



刹鬼様。


愛しい人。



絶対に死なせないっ。

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