キャビアの味

山谷麻也

巨星墜つ

 ◆恩師

 護岸工事のため、河川に栄養分が流れ込まなくなり、牡蠣カキがやせ細っている──。

 そんなことを、確か1980年代から言われていた。環境保護に、私の目を開かせてくれた一言だった。

「恩師」服部幸應ゆきお先生が亡くなった(2024年10月5日没)。


 ◆真贋しんがん論争

 私は30代半ばから50前まで、ある団体に嘱託しょくたくとしてかかわっていて、服部先生にお近づきになれた。


 言葉に説得力があった。

 パーティの後、スタッフが残り物を処理しながら、雑談していた。

「このキャビア、味がおかしいよね。ニセモノよね」

 そんな声が出た。ホテルの名誉のためにも、軽々けいけいに出せる結論ではなかった。


 そこに、師が通りかかった。

「どれどれ。‥‥これ、本物だよ」

 師の一言で真贋論争に終止符が打たれた。言い出しっぺの顔を、私は正視できなかった。


 ◆肩をみましょう

 風貌ふうぼう通りの、穏やかな性格だった。

 気苦労も多かったのか、肩がったので、私に揉んでほしい、という。

 今でこそ、生業なりわいとしているが、当時はズブの素人だった。師は体格がよく、私の手に余った。


「相撲取りみたいですね」

 と言うと

「イヤなこと言うなあ」

 師に一瞬ながらにらまれてしまった。


 ◆職業病

 もちろん、そんなことを根に持つ師ではなかった。

 メタボになったのは、調理師専門学校理事長・料理評論家としての職業病だ、と心配する関係者もいた。


 享年きょうねん78。世の中を照らしてきた巨星がまたひとつ、その寿命を終えた。

 

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キャビアの味 山谷麻也 @mk1624

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