第2話  憂鬱なエリサ

 エリサは、大山脈の北から帰ってきて以来憂鬱であった。

 旅をの顛末は、ただ一人の人間であるエリサの報告だけが全てだった。


 神殿のトップ、三賢人、奥方を失ったロイルのおさにも、包み隠さず説明を求められた。嘘がないか、予見者の立ち合いのもとで、一週間にも及び、エリサはくたくたに疲れてしまった。


 常に、母のアリシアがいてくれたが、13歳の女の子には辛いことであった。


 その中でも、最後に聞いた神の名前だけは、言ってはならぬ気がしていた。

 エリサ自身、をどうして良いのか分からなかったためである。


 聞き取り調査の間中、エリサは、光の神殿で軟禁状態に置かれた。

 エリサの聞き取り調査とは、別に、神が連れてきた精霊最高位の風の奥方が、魔法使いを通して事情を聞き出していたが、風の奥方も神ののことには触れてないようだった。


 ずっと浮かない顔をしていたので、予見師のジェドに、


「エリちゃん、まだ何か隠してない?」


 突っ込まれる始末だ。

 このおじさんは、若長わかおさの守役にして、当代一の予見者だ。

 父や母の学び舎での同級生で、エリサにも親し気に声をかけてくれるが、

 父のレフが言うには、油断の出来ない人らしい。ジェドは、レフの親友だと言い張るのだが……


「あなたの今後が決まったわ」


 旅から帰って10日後、エリサの今後の身の振り方が決まった。

 アリシアが、舅を含む三賢人とロイル家当主の、ミルドラン長たちで話し合った結果、故郷のデュール谷へ帰すよりも、西域のサントスの神殿で巫女リーアになるための修行をさせようということになった。


 もちろん、一人では何をしでかすか分からないので、母のアリシアをサントス神殿所属の魔法使いに。父のレフは、神殿の警備騎士強化のために、いっしょに派遣されることになったのだ。


「これまで、あまり親子の時間は取れなかったものね。西域でやり直しましょう」


 アリシアの言葉に、エリサは少し安堵した。

 一刻も早く、銀の森から立ち去りたかったのだ。


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