第3話  銀の森の若長

 エリサが、西域に発つ日、ロイルの長もの奥方を捜す旅の途中から、身体を害していた若長わかおさが、エリサのもとへやって来たのだ。


 エリサは、思い切りいやーな顔をして、母親のアリシアの後ろに隠れてしまった。

 若長のティランは、そんなことは微塵も感じさせないニッコリ笑顔で、エリサの通り道である、魔方陣の部屋の前に立っていた。


「母様~~」


 エリサは、ティランが苦手である。

 ティランの癖のない銀髪と、陶磁器のような肌、そして銀色の瞳に整った顔は、エリサと一緒に旅をした光の神と瓜二つである。


 ティランの美しさは、遠く西域まで届いていた。

 彼の妹姫、セシリーアンは、良く父長に連れられて西域に赴いていたが、ティランは、病弱のためにほとんど銀の森から出たことがなかった。

 その為、彼の美貌は東方の美姫として有名だった母親のカタリナを凌ぐ美貌だと噂が一人歩きしてしまっていたのだ。

 だが、噂は真実だった。


 エリサでさえ光の神を少し小柄にしたら、間違えてしまいそうだ。


 アリシアが、ため息をついてティランを見る。


「若長、何かご用ですか?」


「エリサと二人にさせてください」


 相変わらず、ティランはニコニコしている。


「今日中に、サントスに行きたいのよ!! 邪魔しないでよ!」


 アリシアの後ろから、エリサが吠えた。


「外に行きましょうか……」


 ティランが、促した。

 アリシアは、エリサの背中を押すと「行ってらっしゃい、待ってるわ」と言って、送り出した。



 *



 光の神殿を出た、池のほとり____


 ティランは、剣を用意していた。

 思わずビビってしまうエリサである。

 怖い知らずと言っても、エリサは、まだ13歳で、今後の生き方を神殿に決められるような体験をしてきたばかりである。

 精霊使いとして、持っていた四大精霊の内、二匹は、神と一緒に天界へ帰り、エリサの精霊は今、風の騎士と火竜の精のみである。


……」


 ティランは、エリサを指さした。


「何!?」


 ティランは、エリサの頭上を指さしていた。


「本当に、それも連れていく気ですか?」


 エリサの頭上には、目を回して動けない

 最下位まで、精霊の位を下げられた風の騎士がいた。

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