第6話 エルベット王家の遺伝病



「さてと……今日は大事な話」


 季希依の5歳の誕生日の夜、お祝いの集まりがひと段落したところで、礼竜が切り出す。

 そこにいるのは、ファムータル邸の面々と、お祝いに来たリディシア邸の三人だ。


 そろそろ、子どもたちに話しておかなければならない。


「僕は、長く生きられないんだ」

 第一子の海藍音は聞いていたのだろう。反応はない。だが、玲竜、季希依、ルアは不安な顔になる。


「僕が遺伝病なことは知ってるよね?」


 子どもたちは頷く。


「この遺伝病は、みんなに話した他にも症状があって……実は、長く生きた試しがない」

 遺伝病で生まれた王族の多くは、3歳にならないうちに命を落としている。成人まで生きた例は礼竜以前では2例。子を成したのは礼竜が初めてだ。

「だから、僕は……みんなの成長を見ることなく、逝ってしまうかもしれない。

 ……ごめんね……」


 礼竜が長く生きたのは、遺伝病の研究者によれば、魔国の血が混ざっていたためらしい。

 ろくでもないと思っていた魔国の呪いの遺伝子だが、遺伝病の王族を生かすことはしていたのだ。


 そして、海藍音の出生と共に呪いは消えた。つまりは――いつ死んでもおかしくない。


 子どもたちは呆然としている。意味を理解し、受け止めるには時間がかかるだろう。

 そして――それまで礼竜が生きているという保証はない。


 雪鈴は、最初に聞かされた。

 まだ婚約が成り立っていない頃、礼竜と文通していた時に、詳細に手紙に書いてあった。

 その手紙は、魔国のエリシア邸の壊滅で燃えてしまったが。


 丁鳩もリディシアも既知だ。

 魔国の呪いが礼竜を生かしていると知らない頃は、幼いこの子の命がいつまで続くか気を揉んだ。


 特にリディシアは、早くに亡くした父親や妹に重ね、不安でたまらなかった。


「はい、暗い話はここまで。

 実は、新作のお菓子を作ったんだよ」

 礼竜が笑顔で言うと、雪鈴が厨房に隠していたお菓子を持ってくる。


 皆、口にしていたが、雰囲気は暗かった。



◆◇◆◇◆




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る