第2話
「御生まれになりました! 母子ともにご無事でございます!」
鳥が産科医の声で喋ると、
基本的に、出産の場に入っていいのは女性のみである。産科医も助産師も全員女性で、夫であろうと産室には入れてもらえない。
夫が産室に呼ばれることがあるとすれば、母子のどちらか、あるいは両方の命が危ない時だけだ。
最後まで夫が呼ばれないのが、安産の兆しでもあった。
産室前のホールでは、助産師が産湯の終わった赤子を抱いて待っていた。
奥へ進めば産室だが、後産が終わるまで会わせてもらえないのが常識だ。
「
雪鈴に似ているのは喜ばしいことだ。少なくとも、遺伝病で苦しむ未来は避けられる。
助産師に目配せで確認して、子どもの性別を確かめる。
「男の子かぁ……」
第一子の海藍音が女の子だったときは心底ほっとした。魔国の呪いの子ではないと。
この子が最初に産まれていたなら、産室に禁を破って駆け込み、雪鈴の生死を確認したかもしれない。
だが、魔国の呪いは解かれた。その証拠に兄・
礼竜の瞳は赤だが、これはエルベット王室の遺伝病の赤だ。魔国の赤ではない。
まだ目も開いていない、首も座っていない男児を、壊れ物のように抱く。
「名前、どうしようかな……」
「ほら、ライ。気が済んだら雪鈴のとこに返してやれ。
雪鈴が落ち着けば、4人揃ってゆっくりできるしよ」
「ミイが一人で待ってるぞ。いい加減行け」
兄と乳母兄の言葉に、名残惜しそうに赤子を助産師に託し、待っている11カ月の第一子の元へ向かう。
乳母に抱かれてすやすやと眠っている次期国王を、礼竜は愛おし気に抱き上げた。
「ミイ、弟が生まれたよ」
基本、魔国の王族には異母兄弟しか居なかった。本当に呪いが解けたのだと安心する。
そっと、兄が背中の悲願花の辺りを撫でる。
兄は、魔国の諍いに巻き込まれ、子を望めない体になった。
自分がもっと早く決意して、雪鈴と子を成していたら、あるいは兄には違った未来があったのかもしれない。
「しっかし、年子か……。お前、案外容赦ないな」
「次の子も年子だったりしてな」
「次の子……」
おうむ返しに呟いて、幸せな夢を見る。
この先、何人の子が生まれるだろう。
従姉のアムのもとには、もう3人も生まれている。
「ライ、気をつけろよ。雪鈴は身体が小さい。
アム様みたいな安産体型じゃないんだぞ。
手加減しろ」
兄はそう言うが、こうも易々とお産が終わってはいまいち実感がわかない。
何人でも雪鈴の子が欲しい。
「ま、礼竜の魔力引き継いだ子なら、王室も神殿も喉から手が出るほど欲しいだろうけどな。
誰か、風成継いでくれれば大儲けだし」
「雪鈴の呪祓も、ミイみたいに継いでくれるといいよな」
第一子のリーリアント・
礼竜が祝福の子と呼ばれてきたが、今はリーリアント王太子殿下こそ祝福の御子だと国民も称えて期待している。
先日即位した従姉イザベリシアも、「ミイちゃんが成人したら即、譲位するからね!」と言いつつ、しぶしぶ即位した。
仕方のない選択だった。王位三位のうち、礼竜はミイの祝言によって即位候補から外され、イザベリシアの双子のイザベルシアも、先日婚姻が終わったばかりだ。
イオルも結婚を受ける際、国王を押し付けられても文句を言わないことを条件にした。アムは自分の選択に従ったのだ。
他国では、国王の座を巡って骨肉の争いが起きるが、このエルベットでは国王など貧乏くじ、王位三位に選ばれた時点で不幸と思う王族もいる。
故に、国王の座にある者も、機会を見て譲位してしまう。もちろん、補佐はするが。
イザベリシア国王陛下には、前国王の母と、前々国王の祖父がきっちり監督・補佐役を果たしていた。
海藍音にも、徹底した帝王教育をと、もう既にカリキュラムと教育係の選抜が始まっている。
封祝言だったとはいえ、帝王教育の遅れた礼竜が王位に程遠い性格に育ったことも、影響しているだろう。
◆◇◆◇◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます